大地主と大魔女の娘
祭りのやぐらで
やぐらの中は静かだった。
下の方からは楽しそうな笑い声が上がってくる。
それでもここは独特の静けさが支配していた。
皆がここを、神聖な場所として設えてくれたからだとも思う。
天井からは代々受け継いできた織り布が張り巡らされ、神秘的で綺麗だった。
今年また新たに加えられた物もある。
それは女達が想いを込めて刺繍した物だ。
その紋様は主に森の恵みを図案化してある。
木や、花実や、小鳥や、鹿や獣。
皆の想いで出来上がった、森の奥深くの神様のすみか。
それが、このやぐらだ。
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『地主様。でしたら森に住めばいいと思います』
大まじめにそう提案する。
一緒にお酒を飲みながら、仮面が外れない理由を考えたり、このままだった場合について話していた。
『そうきたか』
『そう?』
『いや……。何故そのような結論に至るのだ、大魔女の娘?』
『仮面は地主様を選びました。シュディマライ・ヤ・エルマの意思が、そうなのではないかと思ったからです』
『だから外れないとでも?』
『はい』
こくこくと頷くと、頭にあたたかな重みを感じた。
地主様の大きな手だった。
ぽんぽんと二回、あやすようにたたかれる。
『では森に住まうとするか。おまえと一緒に』
地主様は杯を飲み干すと、床に置いた。
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そう言われても、事態が今ひとつ飲み込めなかった。
『一緒に、ですか?』
『そうなるだろう』
久々にあの訳のわからなさを感じた。
初めて地主様に連れてこられた時も、このようなやり取りをしたのを思い出す。
それでも、どうにかお酒を飲み干すことが出来た。
良かった。
お役目をやり遂げたに違いない。
もう、やぐらからは、降りたい。