大地主と大魔女の娘


そこにあるのは立派な青年の姿のはずなのに、私の脳裏に浮かぶのはまだ幼さの残る少年の残像だった。

 引き結ばれた唇を眺めていたら、私も同じように引き結んでいた。

 それは決意の表れだと思うけれども、一体何を決めたらいいのか教えて欲しい。

 誰に教えを乞おうというのか。

 そこで浮かぶのはやっぱり、おばあちゃんだった。


 おばあちゃん。

 いつだってこの胸にある人を思い浮かべる。

 おばあちゃんは確かに年齢から言えば、お年寄りかもしれなかった。

 けれど、私よりもうんと昔のことも、新しいことも知っている人だから。

 この胸に渦巻く想いを表す言葉を、きっと知っているのもおばあちゃんだ。


 でも私も知っていることがある。


 おばあちゃんはこんな時、どう言うかということだ。


 いつも不安で答えに惑うたび、おばあちゃんにすがった。

 すると必ず頭を優しく撫でながら、こう促される――。

『自分で自分に聞いてごらん?』


 おばあちゃんはいつだって、答えを自分で出すようにと促してくれた。

 それが正しかろうと間違っていようとも、それが一番の答え。

 選択を人に任せてはならない。

 一番正しいと思っているおばあちゃんの答えこそ最善に違いない。


 そう信じて疑わない私の甘えは、やんわりと、そしてきっぱりと突っぱねられた。


 だから私は自分に尋ねるしかない。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・:*:・。・



 私も呼吸を整えるべく、意識して大きく息を吸い込んだ。

 辺りは日が落ちかけている。

 一昨日よりも、昨日よりも、日暮れが早いように感じる。

 足はやに駆けてゆく実りの季節を惜しむ間にも、確実に遠ざかる何かを迎え入れられたら――。

 まっさらな自分になれるだろうか。

 ふとそんな祈りにも似た、儚い想いが浮かんで消えた。


 入れ替わるように、ゆっくりと忍び寄る冬の気配が胸に沁みて、背筋が伸びる気がした。


「ジェス」

「言っただろう? 待っていると」

「……うん」

「エイメ、待っていた。ずっと」

「ずっと?」

「ずっとだ」


 ジェスは胸に手を当てると、ゆっくりとその場に跪く。



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