大地主と大魔女の娘
そこにあるのは立派な青年の姿のはずなのに、私の脳裏に浮かぶのはまだ幼さの残る少年の残像だった。
引き結ばれた唇を眺めていたら、私も同じように引き結んでいた。
それは決意の表れだと思うけれども、一体何を決めたらいいのか教えて欲しい。
誰に教えを乞おうというのか。
そこで浮かぶのはやっぱり、おばあちゃんだった。
おばあちゃん。
いつだってこの胸にある人を思い浮かべる。
おばあちゃんは確かに年齢から言えば、お年寄りかもしれなかった。
けれど、私よりもうんと昔のことも、新しいことも知っている人だから。
この胸に渦巻く想いを表す言葉を、きっと知っているのもおばあちゃんだ。
でも私も知っていることがある。
おばあちゃんはこんな時、どう言うかということだ。
いつも不安で答えに惑うたび、おばあちゃんにすがった。
すると必ず頭を優しく撫でながら、こう促される――。
『自分で自分に聞いてごらん?』
おばあちゃんはいつだって、答えを自分で出すようにと促してくれた。
それが正しかろうと間違っていようとも、それが一番の答え。
選択を人に任せてはならない。
一番正しいと思っているおばあちゃんの答えこそ最善に違いない。
そう信じて疑わない私の甘えは、やんわりと、そしてきっぱりと突っぱねられた。
だから私は自分に尋ねるしかない。
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私も呼吸を整えるべく、意識して大きく息を吸い込んだ。
辺りは日が落ちかけている。
一昨日よりも、昨日よりも、日暮れが早いように感じる。
足はやに駆けてゆく実りの季節を惜しむ間にも、確実に遠ざかる何かを迎え入れられたら――。
まっさらな自分になれるだろうか。
ふとそんな祈りにも似た、儚い想いが浮かんで消えた。
入れ替わるように、ゆっくりと忍び寄る冬の気配が胸に沁みて、背筋が伸びる気がした。
「ジェス」
「言っただろう? 待っていると」
「……うん」
「エイメ、待っていた。ずっと」
「ずっと?」
「ずっとだ」
ジェスは胸に手を当てると、ゆっくりとその場に跪く。