大地主と大魔女の娘

 確かに名前は大事だ。

 魔女の娘だもの。

 よぅく心得ている。

 仮面に宿る意思に支配されていたらしい、地主様の言い分はもっともだ。

 だが、もう仮面は外れたのではなかろうか?

 それともシュディマライ・ヤ・エルマの御霊は、まだ地主様の奥深くにしがみついていて離れないのだろうか。

 何といっても今日はお祭りだ。

 そうやって今日は過ごそうと森の神様も考えたのだとしても、文句は言えない。



「カルヴィナ」

「じ、レ、レオナル様」


「カルヴィナ」

「レオナル様?」


 試され……脅されている!

 間違いなく、私は今、脅されているに違いない。



 何が何だかよくわからないが、地主様の放つ気迫にただならぬものを感じる。


 頭の中がぐるぐるしてきた。

 忙しなく呼吸を繰り返していると、視界の端を何かが掠めた。


 そっと伺うと、いつの間にか出来た人垣の中、手を振るミルアの姿があった。

 ひらひら視界を掠めるのは、ミルアの白い手だった。

 ジェスの後ろで人影に紛れてこっそり立つ、ミルアが何やら口をぱくぱくさせている。

 何か言いたいようだ。

 唇をミルアにならって動かしてみた。


 ガ ン バ レ 。


 ――何をどう?


 尋ねようにもこの距離と雰囲気だ。

 困りきって視線を投げかけると、ミルアも何やら決心したように頷く。

 心なしか表情が固い。唇を引き結ぶと、隣に立つ人の腕を引いた。

 その腕を高々と持ち上げて見せてくれた。

 その男の人――エルさんの腕には、一生懸命にこさえた腕輪がはまっている。

「……。」


 何だかもう後には引けない所に追いやられている気がしないでもないが、覚悟を決めるしかないようだ。


 
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