大地主と大魔女の娘

ジェスの背を突進するように叩き、後ろから首を羽交い締めにする人影があった。

 お祭りの直前に、お酒を勧めてきた若者たちだった。


「そうだ! そうだ! 謝らなくたっていい! ジェスは俺らフラレ組みに任せろ――!!」

「祝いの酒でやけ酒すっから気にすんな! 毎年恒例」


「嫌な恒例行事だねぇ」


 いつの間にか歩み寄ってきていた、スレン様がのんびりと言った。


「色男様には解るもんか!」


「確かにそうだねぇ」


 そう言いながら前髪をかき上げる腕には、腕輪が二つもはまっているのが見えた。


「うっわ。むかつく気もおきねぇ」


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 ちょっとした騒ぎの中、地主様だけが落ち着きを払っていた。


 ものすごく大きな、広い意味での好意のつもりで差し出した腕輪だった。

 今までもお世話になりっぱなしで、迷惑のかけ通しだった。


 私の持っているもので、差し出せるものなどほんの僅かでしかない。

 せめてもの、お礼を伝えたい。

 そんな気持ちを込めた品を渡したいと思って、差し出したのだ。


 こんなもの、きっと地主様にしてみたら、何の意味も成さないはずだろうけれど。


 そんな卑屈な気持ちに負けてなるものか、と気持ちを奮い立たせていたのに。

 いざ渡す段階になると、やっぱり気持ちは怯んでしまった。

 それなのに地主様は腕輪をはめてくれて、大事そうに石の部分を撫でてくれている。


 目が合うと石に唇を押し当てながら、頭を下げられてしまった。


 そのまま優雅に膝をたたむように折り、胸に手を当てて申し込まれた。


「あなたの好意を確かに受け取った。どうか私と踊って欲しい」



 地主様――と心の中で呼ぶと、見透かされたように訂正された。


「レオナルだ、カルヴィナ」


 大慌てで頷く。


 そのまま再び、勢い良く横抱きにされた。


「スレン。片付けておけ」

「何だぁ。もう外れちゃったんだね」


 ニヤニヤと意味ありげに笑うスレン様に、地主様は仮面を押し付けた。

 スレン様はおどけて、半分だけ仮面を被るようにしながら、流し目をくれる。


「当たり前だ。いつまでもシュディマライ・ヤ・エルマでいられるか」


「ふぅん?」


 そんなスレン様に背を向けると、地主様はぐんぐん踊りの輪の中に進んでいく。


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