大地主と大魔女の娘
レオナル様にあやすように揺すられながら、少しだけ人の輪から離れる。
炎の明かりから遠ざかったおかげで、あまり顔を見られないといい。
そう願った。
泣いたから、きっと目蓋も腫れてしまったに違いない。
だからといってこうやって、いつまでも抱きかかえられているのもどうかと思う。
「レオナル様。もう大丈夫ですから、下ろして下さい」
一瞬の沈黙の後、解ったと伝えるように頭を抱きかかえるようにされた。
彼のまとう香りに包まれて、胸が苦しくなる。
自分のうるさいくらいに跳ねる胸を、手で押え付けた。
「とても大丈夫そうには見えないが」
レオナル様は慎重に下ろしてくれた。
それでも支えるようにしてくれる。
だから足が地についているか、いないかの差で、あまり状況は変わっていない気がする。
「カルヴィナ?」
今更だけどこんなにも密着していることが、恥ずかしくてたまらなかった。
俯きがちで胸元を押さえているものだから、不審に思われたのだろう。
名を呼ばれながら、そっと顎を持ち上げられた。
私たちの左手には森の夜闇。
それをお祭りの炎の明かりが、闇を押しやってくれている。
思わず息をのんだ。
あまりにも真剣な眼差しで見られていたからだ。
それもあるが、炎の明かりを頼りに見上げた彼の顔は、ひどく精悍に見えた。
そんな事はとっくに知っていたと思っていたのに、改めて思い知らされた気分だった。
時折揺らめく炎の明かりが作る、陰影のせいだろうか。
それだけでレオナル様が、まるで初めて見た人のように見えるのはどうした事だろう。
そらそうとさ迷わせた視線は、絡め取られてしまったかのように動かせなかった。
大きな手のひらに頬を包まれてしまっていたから。
気が付けば、その手に手を重ねていた。
少し滑らせ落ちた指先に触れたのは、手に馴染みのあるつるりとした感触。
見なくとも、それが赤い石の腕輪と解る。
それが今、レオナル様の左の腕に収まっているのだ。
言葉もなく、ただ見つめ合った。
本当はすぐ、その指を振り払ってしまいたかったのだけれど。
何故か出来やしなかった。