大地主と大魔女の娘
「叔父様! カルヴィナ! 素敵だったわ。お母様も来たがっていたのよ! すごく残念がってたんだから。だからわたくし、今日のことたくさん話すわ」
興奮した様子で跳ねながら、リディアンナ様が駆け寄って来た。
その後ろをスレン様もゆったりと続く。
「リディ」
「ありが、とう、ございます」
自分でも驚くほど、声に張りがなかった。
それこそ、取り繕いようがないほどに。
「どうかした? カルヴィナ、疲れちゃったの?」
「少し、だけ」
正直に認めた。
くるくる回ってたくさん笑って、たくさん涙を零したら体がぐったりしていた。
何だか思うように身体に力が入らない。
「カルヴィナ。無理せず休ませてもらおう」
言うが早いかレオナル様に支えられて、いくつか椅子の並べられた場所を目指した。
ここは昼間おじいちゃんやおばあちゃん方が優先的に座るよう、用意された控え場だった。
今、ここに休む人はいない。
ガランと空いている。
その真ん中に腰下ろすと、レオナル様の大きな手が額に当てられた。
「少し熱いな。大丈夫か?」
「はい。平気です」
「水を。何か飲み物をとってこよう」
「あ……。自分で」
「カルヴィナ。いいからここで待っていろ」
「あ。レオナル、僕の分もお願い」
スレン様はすかさず、片手を上げた。
「知るか」
「じゃあ、そこいらのお嬢さんに頼んでくるとしよう」
「自分で取りに行くという選択肢はないのか」
「レオナルは解っていないな。そんなものは口実だよ。女の子に話しかける」
言いながらスレン様は手を振った。
するとこちらを遠巻きに眺めていた女の子たちが、きゃあと嬉しそうに応える。
「話にならんな」
「スレン様の分はわたくしがお持ちしますわ」
「ん。ありがとう、リディ。頼むよ」
「あ、あの、私も行きます」
立ち上がろうとしたが、大きな手に両肩を押さえつけるようにされた。
その重みはびっくりするほど大きくて、熱かった。
じんわりと肩から伝わって行くぬくもりは、再び鼓動をも早めて行く。
どうしようも無くなって、意味も無く思わず首を横に振っていた。
「いい。遠慮はいらないから、ここで少し休んでいてくれ。俺のために」
レオナル様のため?
何故だろうと思って首を捻ったが、そう言われては素直に頷くより他にない。
「日が落ちたから冷えてきた。カルヴィナの衣装では薄すぎるな。気が回らなかった、すまない」
何故、レオナル様が謝るのだろう。
ますますもって理解できない。
困惑していると、ふわりと大きな温かさに包まれていた。
「それを羽織っていろ」
レオナル様はシュディマライ・ヤ・エルマの外套(マント)を、私にかけてくれたのだ。
言葉が出てこなかった。
そんな私の表情はきっと惚けていたに違いない。
いつのまにか添えられていた手に、頬を撫でられて我に返った。
レオナル様には小さく笑われた。
「カルヴィナ。すぐ戻る」
そう言い残すとリディアンナ様の手を引いて、やぐらの方へと向かわれた。