大地主と大魔女の娘
その二人の背中を見送りながら、ふぅと一息つく。
スレン様はふふふと軽く、笑い声を漏らす。
「お疲れさまだったね、フルル」
「……いえ」
「あーあ。どうして仮面外れちゃったんだろうな。もう少しあのままでも面白かったのに」
シュディマライ・ヤ・エルマの仮面を弄び、被るようにのぞき込みながら言う。
仮面越しに私を見ている。
その口角は高く持ち上げられていた。
「ふふふ。見ているこっちがくすぐったいよ。大事にされているんだね。ねぇフルル。レオナルは君の事うんと甘やかすでしょ。あいつはいつもそうだから」
いつも?
そんな所に引っかかりを覚えてしまう。
「聞きたい? だったら一緒に踊ろうか」
「私の足では踊れません」
「ん。知ってる」
仮面をずらして、スレン様はにっこりと笑う。
「でも平気」
レオナル様は誰にだって親切で優しい方だって、もう知っている。
「いつも」という言葉に引っかかりを覚えるなんて、どうかしている。
聞きたくなんてない。
そう思い首を横に振ろうとした。
そのはずだったのに。
スレン様は椅子から立ち上がると、私の前に跪いていた。
『どうかひとときこの手を取っておくれ、大魔女の娘よ』
気が付けば頷いて、目の前に差し出された手を取っていた。
『腕輪を差し出すっていうのは』
『自分を差し出してもいいってことでしょ』
『何? もう食べられちゃった?』
そんなにも深い意味合いが腕輪にはあったのか。
何やら、お祭りの喧騒が遠ざかった気がした。
怖い。
得たいの知れない恐怖に恐れても、スレン様の手は緩んではくれない。
無意識で追いかけたレオナル様の気配も遠い隔たりを感じた。
『何だ。もう気づかれたか。だったら話しは早いよ。二人きりでゆっくり話そうね』
――この人は何か能力(ちから)のある人だ。
気がついた時にはすでに捕われた後だった。