大地主と大魔女の娘
『レオナルは、ねぇ――。これが唯一の女性だと決めたら、一生を掛けてその胸の愛を捧げるぐらいの気負いがあるんだよ。その関係が成熟しようがしまいがお構いなしでそう決めちゃうんだよな。僕には理解できない思考だ。色んな女性がこれだけ居るんだからさ』
『……。』
私にどう答えろと言うのだろうか。
腕を大げさに広げて熱弁する彼を、恨みがましく見やった。
スレン様は観客の関心を得たとばかりに続ける。
『だからあの年になっても独り身なんだよ。いつまで手の届かない女性を想って、努力し続ける気なんだろうかと気をもむでしょ。友人としてはさ。そこにフルルと住み始めたって言うから驚いた。いよいよあのヒトの事は諦めたんだなって』
『いつまでも手の届かない人……?』
『そ。身分違い。貴族のお姫様だ。ロウニア家は資産家だけど爵位も何もない。地方の一有力者に過ぎないからね。アイツはそれくらいの事で諦めたりしない。実力ならあるんだから。後はどうやってのし上がるかって話しだった。多分、僕と初めて会ったのはその頃。なぁんか身分は無いけど、あってもおかしくなさそうな奴が入ってきたって神殿(うち)は噂してた』
遠くを見るみたいに目を細めて、スレン様は笑った。
『アイツは強いよ。強くなった。並み居るライバルに強敵たちをも蹴散らして。うるさ方の古参のじさまや巫女頭達だってものともしなかった。面白かったな。じさまやばさまの慌てふためくさまは。そうこうするうちに巫女王様直々に目を掛けてもらってさ、信頼されて騎士団の指導にまで上り詰めたんだから参っちゃうよ』
『巫女王様に、ですか』
『そうだよ~。僕も忠誠を誓ってお仕えしているお方だ。話くらい聞いたことあるでしょ、フルルも?』
『話だけなら』
『そ。そんな風に出世街道を華々しく突き進む、真面目男がレオナルって訳だ。どうするのフルル。そんな彼が今や君に夢中だよ? お嫁さんになってあげるの?』
どうしよう。
何を言っているのか解らない。
と、言うよりも何故そうはっきりと断言されるのかが、解らない。
『む、むちゅう?』
『そうだよ。何をしたの。魔女の惚れ薬でも一服もった!?』
『何故そこまで話しが飛躍するのかわかりません。それに、私は魔女ですからどこにもお嫁に行けません』
『うん。そんな言葉では引き返せない所まで来ているんだよ。解らない?』
『……。』
『解らない何て言うのなら君は傲慢だよ。だったらレオナルにどうして腕輪をあげたりなんかしたの? アイツはもう有頂天だろうさ。きっと近々、君を妻に迎えたいと言い出すよ。どう責任とるつもり、フルル?』
『え? え、だって! 今、レオナル様には、身分違いの想い人がいるのだって言いましたよね?』
『言った』
『どうしてそんな話しを私にするのですか?』
『それくらい自分で考えてみなよ』