大地主と大魔女の娘

 お互い静かに見つめ合った。

 互いの腹づもりをさぐり合う。

 きっとスレン様は彼なりに、レオナル様の事を大事に思っている。

 それだけは確かだ。

 だとしたら私のことは目障りなのだろう。だからか。

 そう考えた時だった。


『君にレオナルは相応しくないよ』


 スレン様は迷いなく言い放った。

 言われなくても知っている。

 悔しかったから、言い返してやろうと思ったが言葉がなかなか出てこない。


『私は、私ごときがレオナル様には、ふさわしいわけが無いことくらい知って……。』


『違うよ、フルル。レオナルは君には、相応しくないと言っているんだ。君がレオナルに釣り合わないとか、そういう意味じゃない。君にとっては、と僕は言っている。良くても、ほんの、ひとときだ。君だって本当は知っているんだろう?』


『何故、それを、あなたが知って……?』

『なにも君を大魔女に託されたのは、レオナルだけじゃないよ。僕もだ』

 肩にかけられたマントの両端を、ぎゅっと強く握り締めていた。

『大魔女に会いたい?』

 優しく問いかけられた。

 スレン様にはおおよそ似つかわしくない、真面目な顔でのぞき込まれる。

 もちろんだ。

 思わず頷いていた。


『だったら。僕たちとおいでよ。大魔女だって、それを望んでいたと僕は思っている』

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 ――答えは今すぐとは言わない。 時間に余裕はそんなにないけれど。

 そんな言葉で締めくくられた。

 曖昧に頷くのがせいぜいだった。


 耳に届く楽の音に、どうにか意識を現実に戻す。

 近づいてくる大きな温かさに、涙がこぼれ落ちそうになった。

 どうにかごまかそうと、強く瞬きしながら見上げた。


「遅いよ、レオナル。待ちくたびれたじゃないか。ところでリディは?」


「何を言う。ほんの少しの間だったぞ。――リディなら子供たちと一緒だ」


 呆れたようにレオナル様は仰った。


 そう。

 本当にひと時の間だったはずだ。

 でもずい分と長い時間だった。


「待たせたな、カルヴィナ。くたびれたんだろう。これを飲んだら横になれるよう、戻るか?」


 そう言いながら私に杯を渡してくれる。


「あり、がとう、ございます」


 できるだけ大事に受け取るようにはしたけれど、手の震えが止まらなかった。



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