大地主と大魔女の娘
俺にそうされる事にいくらか慣れてくれたらしく、促さずとも下ろされる間際には、首元に腕を回してくれるようになった。
その下ろした瞬間に、腕に力を込められるのが好きだ。
カルヴィナにしてみれば単に、不安定さにしがみついただけかもしれないが。
彼女自身から望んで、抱擁されたとも受け取れる。
それに応えるように、細い身体を抱き込むようにする。
「――もう疲れたな? 横になって休め」
耳元に囁き込むと、頷いたのが伝わる。
背の中ほどをなで上げると、華奢な体がしなった。
そのままゆっくりと身体を横たえてやる。
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どうして俺はこんなにもか弱い娘に、あれほどの暴言を吐けたのだろう?
弱り切った娘がろくに食事も取らずに泣き暮らしている。
そう聞いてしぶしぶ訪れた。
その時の俺は仕方なく出向いたのだ。
これ以上、他人になぞ構っている暇はない。
いくらばあさん縁の者であろうとも、俺は関わる気は無かった。
あの日。
このまま放置すれば娘が、あっさりばあさんの後を追うのが目に見えてしまった。
そこに苛立ちを感じながら、娘をかつぎ上げたのだ。
本当に何という面倒な――。
そうとしか感じられなかった。
帰るのだと言い張る娘に、何と状況の読めない馬鹿な娘かと呆れた。
泣くと腹が立つ。
そう言ってなじった。
放っておけばただ、ただ、弱ってゆくだけのくせに。
食事も取らず、うつむいたまま涙をこぼす娘を、散々なじった。
取らないのではない。
取れなかったのに。
過度の緊張に追いやられて。
そうしたのは俺だ。
あの時――。
萎縮しきって怯え、出ていったカルヴィナを大声で怒鳴りつけた事は記憶に新しい。
ほんのつい先程も同じ過ちを繰り返した上、怒りに任せて押し倒した。
泣きじゃくりながら謝り、震え続ける娘に何と言った?
思い出したくもないとは、我ながら身勝手なものだと呆れるしかない。
嫌われるための行動なら、すでに余すことなくやり尽くしたように思う。
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「地主様?」
「レオナルだ、カルヴィナ」
「あの、巫女の衣装がシワになってしまいますから、横になる前に着替えます」
「そうか。それもそうだな」
「はい」
起き上がろうとするカルヴィナの肩を押さえつけたまま、衣装の肩紐を引いた。
紐は呆気なく解けて白い肌を滑る。
それを眺めながら、もう片方も指に絡めて引く。
次いで腰帯。流れのまま、背中の結び目も同じように。
「じ、じぬしさま……? なに、を?」
レオナルだと言っている。
訂正は自らの唇に乗せたまま、カルヴィナの唇に押し当てた。