大地主と大魔女の娘

地主様に抱えられて、そっと下ろしてもらえる瞬間が好き。

 ――好き。


 あふれる気持ちのままに、少しだけ勇気を出してみる。

 ありがとうございます、という気持ちも。

 それらを地主様に抱きつく腕に託す。

 ぎゅっと力を込めると、大きな手が背中を撫でてくれる。


 まるで壊れやすいものに触れるみたいに感じるから。

 大切にしてもらったという錯覚に浸る事も出来る。

 最初の内は恥ずかしいという気持ちが強くて、素直に地主様を頼る事が出来なかった。


「疲れたな? もう横になって休め」


 何度かあやすように頭から背を撫でられてから、身体を横たえてくれる。

 大きな手。

 私の頭だって一掴みに出来てしまうほどに。

 ミルアと一緒に怒られた時を思い起こして、少し笑ってしまった。


 地主様はなんだかんだといって、私を子供扱いするのだと思う。

 何だか暖かなものにくるまれているような、そんなふわふわした気持ちになってしまう。

 こんな気持ちのまま、眠りに落ちていけたらさぞや良い夢が見られるだろう。


 そう思いながらも、まどろみに身を任せる訳には行かない事に気がつく。


「地主様?」

「レオナルだ、カルヴィナ」

「あの、巫女の衣装がシワになってしまいますから、横になる前に着替えます」

「そうか。それもそうだな」

「はい」

 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・:*:・。・


 シュス、とわずかに空気を切る音が、耳元を掠める。

 肩紐が解かれたのだと知る。

 もう片方も。

 腰に巻き付けられた飾り布も緩んで、楽になった。

 背中に回された指先が、身体を締める衣装の紐を難なく探り当ててしまった。


 僅かに持ち上げられて体が浮く。


 あまりに流れ良く進む手際の良さに、しばらく惚けていた。



「じ、じぬしさま……? なに、を?」


 そこまで子供だと思われているのだろうか?


「地主様?」


 柔らかく押し止められながら、疑問を口にした。


「レオナルだ」


 そう間近で囁かれると、反論ごと塞がれた。


 地主様の、唇で。

 そう呼ぶ心の中でさえ見透かされたように、強く押し当てられてはひとたまりもなかった。


「や……!」


 思わず漏らした悲鳴すら、飲み込まれてしまう。

 熱くて柔らかい感触に侵食されて行くかのよう。

 さっきもやぐらでされたのと、同じようにされる。

 絡め取られて、執拗に嬲られる。


 こわい。


 どうして名前で呼ばないと怒られるのだろう?


 聞きたいことがたくさんある。


 自分自身にも。


 す……き?


 ほんとうに?


 自分に問いかけてみる。


 涙がこぼれ落ちた。


 ――苦しい。




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