大地主と大魔女の娘

逃れようとしても、許されなかった。

 余計に深くを許してしまう結果になるだけだった。


「ん、んっ……ぁん」


 切れ切れに漏らしてしまう声が自分のものだなんて信じられない。


 しびれ始めたのは体だけじゃない。

 思考もだ。


 暖かいだけじゃない。

 同時に熱さも感じる。


 息が乱れていたのは私だけじゃなかった。

 暗闇の中、肩で息をしながらどうにか訴える。


「じ……レオナル様。服くらい自分で脱げます。私、そこまで子供じゃありません」


 痺れを起こした舌では、うまくろれつが回らない。

 それでもなるべく、毅然と言い放ったつもりだ。


 紐という紐は解かれ、胸元まで引き落された衣装をどうにか引っ張る。

 これ以上引かれたら、ただでさえ凹凸に乏しい私の体が曝されてしまう。

 例え暗闇にあっても、恥ずかしいものは恥ずかしい。


「カルヴィナ。お前は俺を殺す気か?」


「そんな事、あるわけありません。地主……レオナル様」


 どうして地主様と呼ぶと怒るのだろう。

 どうしても今までの癖で、地主様と呼んでしまう。

 そもそもレオナル様と呼ぶなんて、恐れ多い。


 何もかもひっくるめて意思表示するつもりで首を横に振った。

 暗闇であっても間近できつく、見下ろされているのを感じる。


 胸が痛いくらい忙しい。


 やがて重々しいため息がひとつ降ってきて、首元を掠めた。


 身体にかかる圧迫感が増す。


「やぁ、じ、ぬし様!」

 首筋をかすめ続けていた柔らかな弾力が、押し当てられながらゆっくりと移動してゆく。

 首筋から鎖骨、胸元まで通って、また首筋へと戻ってゆく。


「くす、ぐったいです。っ、あ、痛」


 くすぐったいと抗議した途端、耳たぶを噛まれた。

 わずかであっても、それはチリチリとした熱さを私に残した。


「やあ、レオナル様、レオナル様って、ちゃんとお呼びしますから。怒らないで」


 どうしても逃れたくて、必死で彼の名を呼んだ。


「レオナル様、レオナル様、いやなの、レオナル様……!」


 幾度も泣いて訴える。

 地主様は答えてくれない。

 ただ、同じように唇が胸元と首筋を行き来するばかりだ。

 そして時折、耳たぶを噛まれる。

 だがそれも、最初の時ほど強くはなかった。

 甘噛み。

 きっとそれだと思い当たった。


 そうこうするうち、つつまれている心地よさに眠気に襲われ始める。


 身体に力を入れていられない。


 目蓋にさえも。


 絶え間なく与えられる刺激すらも、私を眠りに誘ってゆく。


 そうして全身の身体から力が抜けていった。


「カルヴィナ。おまえはやはり俺を」


 ――殺す気か。


 うとうととまどろみ始める中、苦しそうな呟きを聞いた気がする。


 
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