大地主と大魔女の娘
私というお荷物を乗せてなおかつ、こんなにもしゃべり続けていながら、スレン様の呼吸はまったくもって乱れていなかった。
「レオナルは迎えに行った。あのまま無視するかな、って本当は思ったんだ。面倒ごとが無くなった。そういう答えを出すかな、と思ったんだけど。意外にも自分で追いかけた。人も使って、あちこちに配置して。それこそ、囚われているって公言しているようなものでしょ?」
「囚われている?」
地主様ほどの方が、何に囚われていると言うのだろう。
あの方は自由だ。
何においても彼自身に選ぶ権利があると、私は思っている。
それは私には無いものだとも。
悲しくなって瞳を伏せる。
そんな風に思って面をあげられなくなる自分がますます、その輝かしい何かから遠ざかる気がした。
少しでもいいから彼の側にいるのに相応しい、人となりを望んでいるのだと気が付く。
それが具体的にはどういったものなのかを考えるのが怖くて、事実を突き付けられる前から、私は逃げている。
今だってそうだ。
「もう、馬を止めて。下ろしてください」
意を決するよりも早く、言葉が口を付いて出た。
体をこわばらせて、その場に留まるようにしてみたが、何の効果もなかった。
「嫌だよ」
「お願いします」
「……ダメ。もうちょっと、付き合って」
スレン様は少しだけためらってから、続けた。
「レオナルは繰り返すよね。君の魅力にひれ伏しては、それに抗うっていうの? 優しくしては突き放す。矛盾しているんだよ。君を大事に想う心と己の自尊心を量りにかけては、その重みの傾くほうがわずかばかり自分なんだ。レオナルが一番フルルを侮辱しているに、他ならないと思わないかい? そのくせフルルって呼ぶ僕を怒るんだ。要は自分以外の誰かが、フルルを侮辱すると怒り狂う。フルル自身がフルルを卑下してもだよ? 何様のつもりなんだろう。そう思わないか」
「それは、私が税を納めてこなかったし、色々と問題のある娘だから……。」
「まだそんな事を言うの?」
うまく答えられないまま、スレン様の走らせる馬に揺られ続けた。
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いくらか風が柔らかになった。
馬の足音にもゆとりが表れる。
それでも私の動悸は収まらない。
吹き付けてくる風は心地よく、厳かながらも暖かな空気に出迎えられる。
開けた原っぱの先に待つもの。
それは、森の彼ことオークの巨木だったからだ。
「さて、振り切ったね。どうしたのさフルル? 君、ここが好きだろう」
スレン様がこともなげに言うのを、ただぼんやりと聞いていた。