大地主と大魔女の娘

いよいよ森の彼の枝の下に入ると、スレン様は切り出した。

 何の抑揚もない呟きだったが、何故か私の心をざわめかせるのには充分だった。

 それに呼応するかのように、風が吹いて大きく枝がしなる。


 ぱらぱらと視界を掠める何かが落ちてきて、足元を見ればそれはオークの実だった。


「いてて」


 ふと見上げれば、スレン様は片手で頭を庇うようにしている。


 きっとオークの恵みに打たれたのだろう。


 いつかもこんな事があった。

 一緒にオークの恵みに打たせてもらった。

 楽しかった思い出に、僅かに頬が緩む。

 でも何故か、心が重い。

 やり切れなさが広がった。


 今、一緒に恵みに打たれているのが、スレン様だからだと思う。

 それを見透かしたように、スレン様が言った。


「フルル。やっぱりレオナルの方がいいんだね」


「……。」


 からかいは一切、感じられなかった。

 だからこそ余計に、私は何も答えられなかった。

 ただ、黙り込む私にスレン様は続ける。


「ねえ、やめておきなよ。言ったよね。レオナルは、君には不釣合いだって。レオナルは……だし。君は大魔女の、森の娘だもの。これから先が予想できるでしょ」


「……あなたは、一体、」


 それだけ言うのが精一杯の私を遮って、スレン様は言葉を止めようとはしなかった。


「レオナルはこれから先々、また君にとんでもないことをしでかすよ。別に君が悪いとかそういう事じゃない。それはレオナルがレオナルであるからこそ、起こりうる事なんだ。その前に僕たちとおいでよ」


 ――ねぇ、そうしなよ。


 
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