大地主と大魔女の娘
「カルヴィナ!!」
風のざわめきに乗せて、確かにそう呼ばれた。
強く確かな響きが私を呼んだ。
「レ……オナル、さま?」
「あ~あ。残念。良いところだったのに、追いつかれちゃったよ」
スレン様は、おどけたように言うと私から少し離れた。
その背に隠れて見えなかった人影がさした。
「カルヴィナ! 大丈夫か? スレン、どけ!!」
乱暴にスレン様の肩を押しやると、レオナル様は私を抱きしめた。
足が浮き上がる。
私もためらいなく抱きついていた。
まるで私という存在を確かめるみたいに、背を撫でられる。
「カルヴィナ、すまなかった。カルヴィナ、カルヴィナ、無事か?」
「っく、レオナ、レオナルさま。ごめんなさい、ごめ、ごめんなさい」
温かさに包まれて安心する。
だから素直に謝る事が出来た。
背をあずけていたオークの木と同じくらい暖かで、頼りになる気配に涙が溢れる。
素直に怒りも苛立ちも、喜びもあたたかい想いも溢れるままに、表してくれる人。
「カルヴィナ、カルヴィナ、カルヴィナ」
幾度も名を呼んでもらえて、私はやっと落ち着くことが出来た。
「すまなかった。来るのが遅れた。怖い思いをさせてしまったな? ――スレン! どういうつもりだ!」
私を大事に隠すようにしながら、スレン様に詰め寄る。
「ん? 二人とも意地っ張りだから悪いんだろ。良かったじゃない。仲直りできて」
そこにはいつもの、本当に今までと変わらないスレン様しか居なかった。