大地主と大魔女の娘
やはり、帰らない、帰りたくないと訴えられた。
そこはスレンが話術で巧みに言いくるめてくれたおかげで、どうにかこうして帰路についている。
先ゆく白馬を見つめた。
カルヴィナは俺と一緒ならば嫌だと泣いて、スレンにすがったのだ。
「よしよし。じゃあ、優しい僕が一緒にだったらいいよね?」
またもスレンは言葉をいいように捉えて、何となくカルヴィナの意思を尊重したように納得させた。
「じゃあ、行こうか」
スレンに抱えられてカルヴィナは馬に乗せられた。
いくらか居心地悪そうにして見えるのは、俺の希望だろうか。
やはりこちらがいいと、腕を伸ばしてくれないだろうか。
そんな気持ちも込めて見守る。
目があったが、ショールを深く被り、顔を隠されてしまった。
それでも見つめ続ける。
「ハイハイ行くよ。レオナルはもうちょっと、離れて離れて」
どちらにしろ、狭い森の小道を並んで馬を進める事は出来ない。
仕方なく、その後ろに続いた。
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何事か。
いきなりスレンが馬の腹を蹴った。
「はっ!」
やると思った。
奴の事だから、俺を引き離すくらいのいたずらは仕掛けてくるだろうと、最初から踏んでいた。
だが向こうは人ふたり分の重みがある。
馬にとってそれは不利だ。
そうした油断が俺を不利な状況へと追い込んだ。
引き離された?
そんな馬鹿な。
スレンはああ見えても能力者としての腕はある方だ。
人に気付かせず、術を発動させたりも出来るのか。
俺にすら、いや俺だからこそ、手の内は見せないでおいたのだろう。
スレン、本当に食えない奴……!
歯ぎしりしても距離は広まるばかりか、その馬の背を見失った。