大地主と大魔女の娘

 やはり、帰らない、帰りたくないと訴えられた。


 そこはスレンが話術で巧みに言いくるめてくれたおかげで、どうにかこうして帰路についている。


 先ゆく白馬を見つめた。


 カルヴィナは俺と一緒ならば嫌だと泣いて、スレンにすがったのだ。


「よしよし。じゃあ、優しい僕が一緒にだったらいいよね?」


 またもスレンは言葉をいいように捉えて、何となくカルヴィナの意思を尊重したように納得させた。


「じゃあ、行こうか」


 スレンに抱えられてカルヴィナは馬に乗せられた。

 いくらか居心地悪そうにして見えるのは、俺の希望だろうか。

 やはりこちらがいいと、腕を伸ばしてくれないだろうか。


 そんな気持ちも込めて見守る。


 目があったが、ショールを深く被り、顔を隠されてしまった。

 それでも見つめ続ける。


「ハイハイ行くよ。レオナルはもうちょっと、離れて離れて」


 どちらにしろ、狭い森の小道を並んで馬を進める事は出来ない。


 仕方なく、その後ろに続いた。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・:*:・。・


 何事か。


 いきなりスレンが馬の腹を蹴った。


「はっ!」


 やると思った。


 奴の事だから、俺を引き離すくらいのいたずらは仕掛けてくるだろうと、最初から踏んでいた。

 だが向こうは人ふたり分の重みがある。

 馬にとってそれは不利だ。

 そうした油断が俺を不利な状況へと追い込んだ。


 引き離された?

 そんな馬鹿な。


 スレンはああ見えても能力者としての腕はある方だ。

 人に気付かせず、術を発動させたりも出来るのか。

 俺にすら、いや俺だからこそ、手の内は見せないでおいたのだろう。


 スレン、本当に食えない奴……!


 歯ぎしりしても距離は広まるばかりか、その馬の背を見失った。


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