大地主と大魔女の娘

 そうして辿りついたのは、例のあの森の彼こと、オークの木のもとだった。

 何故、奴がここに?


 そんな疑問は後でいい。


 間違いなく、ここでこちらに背を向けているのは、スレンだった。

 カルヴィナの姿は見えない。

 だが、スレンの腕が捉えている手首は、カルヴィナ以外にありえない。


「カルヴィナ!!」


 馬から飛び降り、全力で駆けつける。

 仮面は途中で放る。

 視界を遮って邪魔だったからだ。


 スレンは必要以上に近く、カルヴィナの側にいた。

 宥めようのない怒りに、今度こそ身を任せ、勢い任せにスレンの肩を引いた。

「あ~あ。残念。良いところだったのに、追いつかれちゃったよ」


 ふざけた口調であったが、スレンの目は挑戦的に、睨んできた。

 こいつは時折、俺に敵意をあらわにする。

 いつもは、表に出さないようにしているのだろうと思う。

 だが、今は構うところではなかった。


「カルヴィナ! 大丈夫か? スレン、どけ!!」


 木とスレンとに挟まれて、身を小さくしていたカルヴィナがこちらを見ていた。

 瞳には涙が溢れている。

 だが、そらされる事は無かった。


「カルヴィナ、すまなかった。カルヴィナ、カルヴィナ、無事か?」


「っく、レオナ、レオナルさま。ごめんなさい、ごめ、ごめんなさい」


 泣きじゃくりながら、俺へと腕を伸ばしてくれた事に安堵する。

 幾度も名を呼びながら、その背を撫で続けた。

 温かさに安堵する。

 カルヴィナも安心したように身を任せてくれた。


「すまなかった。来るのが遅れた。怖い思いをさせてしまったな? ――スレン! どういうつもりだ!」


 カルヴィナを腕にしまいこみながら、スレンを問い詰めたが、ニヤリと笑われただけだった。


「ん? 二人とも意地っ張りだから悪いんだろ。良かったじゃない。仲直りできて」


 そう言うとさっさと背を向けて、馬へと戻り出した。

 途中、俺の放った仮面に気づいて拾い上げていた。

 何事もなかったように、それを歩きながら、ひらひらと振るようにして見せた。


「二人とも、もう帰ろう。日が暮れちゃうよ」


 これ以上は何も言わないからね。


 その背はそうきっぱりと、俺を拒絶しているようだった。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・:*:・。・


 二人でしばらくその背を見つめていると、ぱらぱらと乾いた音がした。


 オークの実だ。

 それが俺の頭と肩に当たっている。

 当たり続ける。


 ――相変わらず、オークの木からも歓迎されていないようだ。

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