大地主と大魔女の娘
カルヴィナ。
俺の夜の雫。
そう。俺のもの。
ただ涙を流し続けていた娘だった。
それを保護し、衣食住を与えているのは俺だ。
それなのにいつまでもこちらに馴染もうとしない。
森こそが自分のある場所だと言い張ってきかない娘に、苛立ちは募るばかりだった。
森がなければ魔女として成り立たないなどと言う、その唇を封じてやりたくて仕方がなかった。
非力な、しかも足の不自由な、貧相な娘のくせに。
財産らしいものは何も持たず、一体どうやって生きて行こうと言うのだ?
言葉にせずとも、そう詰問し続けていた。
思えばあれほど腹が立った事など、そう無かった。
どうしてあれほど、腹立たしくてたまらなかったのだろう。
おまえの頼りにする森が、一体何をしてくれると言うのだ?
この俺こそがお前に与えているというのに。
何故、そんな顔で見られなければならないのだ?
娘は怯えきっていた。
俺を見るたび、顔色を失う。
深く頭を下げて、恐れ多いという言葉でまとめあげて、俺という存在一切を否定してしまう。
いつも浮かない顔をして、食事もろくに取ろうとしないのは、俺に対する挑戦か?
全く、大魔女の娘だか何だか知らんが、つまらない自尊心だけは高いと見える。
散々、なじった。
食事をろくに取らないと聞くたびに。
夜更けに一人で抜け出されるたびに。
「申し訳あり、ません」
娘が涙ながらに謝っても、俺は容赦せず追い詰めて行った――。
俺はどういった訳か、容赦という言葉を持ち合わせていなかったらしい。
あの時の感情は、改めて思い直してみても説明がつかない。
その言葉では言い表せないもどかしさに突き動かされながら、ただ娘の涙を苦々しく感じていた。
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今にして思えば、俺はカルヴィナに好かれたがっていたのだと認める。
これだけ与えてやっているのだから、感謝されて当然だと。
豊かな財が与えてくれるもの。
土地も屋敷にも恵まれているおかげで、何の不自由もない生活。
それは普通の生まれであっても、なかなかに難しい世の中だ。
俺は惜しみなく施す事に、ためらいは無かった。
他の者なら、そのような反応を得られた。
「これで一家は飢え死にしなくて済みます。ありがとうございます」
「一生感謝いたします! 娘は身売りをせずに済みました」
そう度々感謝されるごとに、俺は何かを勘違いしだしたらしい。
そう。
貧しき者に与えれば与えるほど、感謝されるものだと――。