大地主と大魔女の娘


 すごくはっきりとした声が、この庭園を支配してしまったかのように感じる。

 何だろう、何事だろうか。

 ただならぬ気配に訝しみながら、声の持ち主を振り返って見上げる。


 私はぽかんとしてしまった。


 見上げたその人が、あまりにも美しい女性だったからだ。

 てっきり、お屋敷のお姉さん達の誰かかと思ったけれど、違っていた。


 まず視界を占めたのは、美しく流れるドレスの裾だった。

 ドレープをたっぷりときかせた豊富な生地が、女性の歩みと共に一緒に流れる。

 まるで小さな滝だ。


 滝の流れが近づいてくる。


 一目で質の良いと思わせるそれは、華美ではないのだがとても豪華に見えた。

 陽の光を浴びてより一層、きらびやかに光を放っているかのようだった。

 衣装もそうだが、それよりもこの方自身が光を放っているかのような容姿だ。


 小首を傾げるように覗かれ、胸の辺りが跳ね上がる。


 サラサラと溢れる髪は、透き通ったかのような金色だ。

 まるで光の束そのものみたいに、私には映る。

 大きな瞳は、これまた透明感のある翡翠色だった。

 実際には見たことは無いが、きっと宝石と同じ輝きを放っているに違いない。

 光の加減によって澄んだようにも、深みがあるようにも見える。

 きっと、ご自身に自信があるのだろう。

 迷いなく見据えられて戸惑うしかない。


 私はといえば、いたたまれなくなって、視線があちこちに泳いでしまう。


 どうしよう。どうかした方がいい気がするのは、この方が高貴な方だと解るからだ。


 それを知らしめるのは、この方が生まれながらに纏(まと)うもの。

 それは品位という言葉で表現するのが相応しいのだと思う。

 この方との決定的な違いは、生まれと育ちだと私にだってわかる。


 あまりにもこの場に相応しくない雰囲気に、嫌でも気圧される。


 あまりに綺麗だから触れてみたく感じるけれども、同時に手を伸ばすのはためらわれるもの。

 恐れ多い気がして、私は身を引く方を選ぶ。


「あの、子猫をお探しなのですか?」


 いつまでも黙ったまんまでいるのも悪い気がして、恐る恐る尋ねてみた。


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