大地主と大魔女の娘


 かつてと何ら変わらない笑顔で、口調で、ためらいもなく言い切る女を見た。

 いつかの想いはあまりに遠かった。

 今、この胸を占めるのは嫌悪感だ。

 この女、何を言い出すのかと腹が立つ。

 無力なカルヴィナを攻撃する様子は、ただの弱い者虐めだ。


 そしてそれを阻止できなかった己に対しても、憤りを感じている。


「俺が変わった?」

「今だってそうだわ。話し方からすでに距離を置こうとしているものね」


 顎をそびやかし、流し目をくれながらルゼは続けた。


「レオナル。貴方はわたくしに求婚したのよ。恐れ多くもこの、公爵令嬢のわたくしによ? 爵位もない地方の一地主でしかなかった貴方が」

「ルゼ、それは」

「忘れたなどとは言わせない。貴方は身分の差を必ずや埋めて見せるとまで宣言したわ。そうでしょう?」

「……ああ。そうだったな」


「そうだったな、ですって!? そんな事で済ませようというの」


 取り出した扇で俺を指しながら、ルゼは笑った。

 それはどこか自嘲じみていて、言うほど俺を責めてはいないように思えた。


「貴方がおおっぴらに求婚したことで、わたくしは迷惑を被っているのよ。だから、貴方も困ればいい気味だわ」


「ルゼ。あんたとは終わったと思っている。とっくに。今更なんだ?」


 勝気な瞳が俺を見据えている。

 そこにあるのは強い挑戦的な光だった。

 まっすぐに射抜くように視線をぶつけてくる。

 少しでも怯む俺を見逃すまいとしているのか。

 敵と見立てた相手に敵意を隠しもしない。

 ルゼのこの挑戦的な生き方は、けして嫌いではなかったはずだった。

 今は受けて立つ気も起きず、ただ受け流すに止めた。


「何故?」

「あんたは婚約した」

「そうね。お父様に逆らえずにね。けれどもまだ、正式にではない」

「嫌々なのか?」

「そうでもないわね」


「だったら何をしにきた」


「貴方が悪いのよ。いつまでも、わたくしを想って努力し続けているようだったから」


「引くに引けないところまで来てしまったから、引っ張り出されるだけだ」


 思いがけずに手にした立場の重責は、次々と努力を必要とされる。

 それに応えねば、仕事をしたとはいえまい。

 だから向き合う。それだけの話しだ。


「あらそう。世間はそう見なくてよ。それに随分なでしゃばり具合じゃなくて? 特別な能力者でもない貴方が、神殿入りしているだけでも異例なのに。それが護衛団の総指揮者ですって? しかも巫女王様の覚えもめでたいときている」


 ふふふ、と軽く小馬鹿にしたように鼻を鳴らされた。

 だが気にするところでもない。


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