大地主と大魔女の娘
新しい物が次々、次々と用意されてしまうから。
お姉さんたちも次々と新しい、まだ着たことのないお衣装をどうぞ、と言って勧めてくる。
いつも、ためらいながら通す衣装たち。
深い藍色、薄めの空色、明るめの深緑に、薄淡い黄緑色。
色とりどりの洪水は変わらない。
でも最初のころよりもずっと、控えめな物を用意されている事くらい、ちゃんと気がついている。
どれもこれもみんな、私の心許せる森にある色合いばかりだ。
そう感じるのは、私の思い上がりなのかもしれないけれど。
そうしていくつかの候補の中で、目が覚めるような赤い衣装を当てられた。
これはいくら何でも派手すぎやしないだろうか。
目立ちすぎて恥ずかしい。
そんな気後れが表情にも表れていたのだと思う。
スレン様はニッと笑った。
「んん? 自分で着る? それとも僕が着せてあげようか?」
首を横に振る。
「どうして? これじゃ嫌なの?」
「あ……。派手すぎるから」
「派手? そうでもないと思うよ。こんなの」
「充分、派手だと思います」
「そう。この色は何の色に例えようか、フルル?」
「え? えっと。ナナカマドの赤い実の色みたいです」
「お。いい例えだね。アレは雪景色の中でも、鮮やかに赤くて小鳥たちに存在を教えてくれているよね」
「はい」
「でも、フルルは派手すぎる何て思わないでしょ」
そうだ。
秋空にも充分映える赤い実は、冷え込んでも実りを付けてくれているのだ。
雪をかぶって赤い実は、ひときわ鮮やかに映る。
確かに派手すぎるだなんて、思ったりしない。
ナナカマドはナナカマドだから、赤い。
「はい」
「じゃ、これね」
何だか丸め込まれてしまった気がしないでもないが、すんなりと受け取る事が出来た。
「そうそう。どんな時だって面を上げていなけりゃ、女がすたるよ。それに。そんな気持ちを助けてくれるような、装いってものがあるわけ」
そこで一つ、息を大きく吸うとスレン様は目を細める。
『ナナカマドの赤は燃えたぎる炎にも匹敵する。剣をも鍛えるあの、炎のように。それでいて七度釜戸に焼かれても燃え尽きることのない樹木。そんな色彩をまとう事に、何を気後れする必要があるだろうか。森にあるもの全ては、君の力添えになりたいと願っていると言うのに』