大地主と大魔女の娘

 一息に告げられた言葉は古語だった。

 きっと何らかの意味合いを持つ、言葉の並びのように響く。

 その意味を問いかけようにも、ただひたすらに見つめて、言葉の余韻に浸る事しか出来ずにいた。

 手渡された衣装を強く握り締めるくらいしか。


 そんな私にスレン様は背を向け、ひらひらと手を振った。


「何だか、誰かさんの足音が近づいて来ているから、早くねー」

「!?」


 慌てて衝立ての後ろで着替える。

 急いだのと、着慣れないせいで、思ったより手間取った。


 そんな時、ドンドンと扉を叩く音がした。

 驚いて肩が跳ね上がる。


「はいはい、レオナルちょっと待っててー。フルルはお着替え中だから、開けちゃダメー」


 そんな事をさらりと、扉の向こうに言わないで欲しい。


 ドンドン・ドンドンと乱暴に扉が叩かれている。

 幾分、下の方からも響いて聞こえたから、扉を蹴りつけているのかもしれない。


 ―― ス レ ン! 貴 様 こ こ を 開 け ろ !


 そんな怒鳴り声もどこか遠い。

 
 「フルル、気にしなくていいからね。でもレオナルが扉を蹴破っちゃう前に、お着替えしてあげて」


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・:*:・。・


 相変わらず、扉の向こうからは大きな音がしている。

 そんな事はお構いなしで、スレン様は自分の調子を崩さない。

 私を鏡台の前に座らせると、白く柔らかなショールを肩にかける。


「うん。いいね。ナナカマドの花の色だし、ピッタリ」


 それから髪を梳かして整えると、素早く香油で撫で付けてくれた。

 別の入れ物も素早く開けると、すくった蜜蝋を私の唇に塗る。

 手の甲で私の頬を撫でて、考え込んでいたのだが「いいか。このままで。おしろい必要なし」と言うと、手を離した。


「はい、出来た。ん、可愛い可愛い。……まずい。僕も、はまりそう。女の子で着せ替えゴッコ」


 支度が終わると、ひょいと抱きかかえ上げられてしまった。

 そのまま、歩き出す。


 扉は変な軋み音がし始めていた。


「もう、泣かない、泣かない。いいこ、いいこ。フルル、ちゃんと見てなよ。レオナルの顔」


 そう、扉を開ける前に囁かれた。

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