大地主と大魔女の娘
蹴破る寸前だった扉が、ふいにあっさりと開かれた。
「スレン! 貴様、どういうつもりだ!」
「お待たせ」
怒りに任せてスレンの胸ぐらを掴み上げるべく踏み出せば、奴の腕の中にはカルヴィナの姿があった。
「っ!」
奴の首元に手を絡ませたカルヴィナを見た途端、頭に血が昇った。
何故そこまで密着する必要があるのだ。
さもそれが当然だと言わんばかりのスレンに、怒りがこみ上げる。
大声で咎めようとしたが飲み込んだ。
怒鳴ってはならない。
頭を振り、落ち着くために大きく息を吸い込んだ。
「カル、ヴィナ」
慎重に名を呼ぶ。
よつゆ、と。
俺の名付けた名前に応えてくれる、娘を見つめた。
そっと身動ぎ、カルヴィナがこちらを見た。
純白のショールの端から、恐る恐るといった風に。
ふんわりとした作りのショールが、カルヴィナの雰囲気をより一層柔らかく見せていた。
それとは対照的な深紅のドレスが、また良く似合っている。
紅といっても鮮烈過ぎず、よく熟れた木の実のような色合いは、カルヴィナの黒髪を引き立ててくれる。
そう見込んで用意させた物のひとつだった。
なかなかその衣装に袖を通してくれる気配の無いカルヴィナに、恐らくその色合いに気後れしての事だろうかと思いを巡らせてもいた。
だから無理強いはしなかった。
だが、贈った衣装はちゃんと着てくれる。
ならばそのうち着て見せてくれるだろう、と気長に構えるように自分に言い聞かせていたのだ。
断言してもいい。
カルヴィナ自身からは選ばない類の装いだ。
どんなに周りが似合うと勧めても。
もう少ししたら冬の祭りがあるから、その日は赤い衣装をまとうのが習わしだ、と言い含めるつもりでいた。
きっと良く似合うから着てみて欲しい。
そう付け加えられたら、俺は自分を成長したと褒めてやるべきだ。
それがよりによって、スレンの手によってかと思うと複雑だった。
何を引け目に感じる事があるのだ、と自分自身に言い聞かせる。
カルヴィナが着ている物は全て、俺が贈ったものだ。
――下着も何もかも全て。
「どぅお? 僕仕様のフルル。ナナカマドの実みたいに、魅力的でしょう?」