大地主と大魔女の娘


 リディアンナ様はすかさず手を出して、遮った。


「お母様、わたくしがやりますから、座ってらして」

「はいはい。リディも過保護ねえ」


 諦めたように肩をすくめて、ジルナ様がこちらを見た。


「ジルナ様」


 ジルナ様は記憶よりも頬がこけて、顔色も青ざめて見えた。

 ずっと体調が優れなかったそうだから、リディアンナ様の心配も無理は無いと思うのだ。


「さあ、カルヴィナも座ってちょうだい。リディに任せてしまいましょう?」

「はい」


 促されるままに隣に腰を落ち着けた。


「カルヴィナ、今日はまた一段と艶やかね。素敵。ナナカマドの赤い実みたいよ。レオナルはさぞかし有頂天だった事でしょう」

「えっと、その、あの」

 服装を褒められ、急に地主様の事に触れられて、上手く言葉が出てこなかった。

 何とか返事をしようとする間にも、ジルナ様はおかしそうに笑っている。


「ふふ。綺麗になったわねぇ、カルヴィナ。ほんの少し会わなかった間に、何があったのかしら?」


「そりゃあ、もう! 色々とよね、カルヴィナ。はい、どうぞ、召し上がれ」


「……ありがとうございます」


 私が言い淀んでいるのを見かねたのか、リディアンナ様が代わりに答えてくれた。


 すすめられるままに、カップに手を伸ばす。

 これまた緊張を強いられる茶器だ。


 白磁に美しく描かれた赤い実は、ナナカマドだった。

 それを小鳥がついばんでいるという絵柄。

 リディアンナ様が、ジルナ様の例えに気を利かせてくれたのだろう。

 所々金で装飾されたそれは、小さな芸術品と呼ぶに相応しい。

 おおよそ私の感覚では普段使い用の品ではない。


 繊細な持ち手に絡む指先は、ジルナ様やリディアンナ様のような方たちのものが、相応しいだろうに。

 先程まで土いじりをしていた私の指先は、相変わらず少しささくれている。

 そっとため息を飲み込んで、器を大事に手にした。


「おいしい、です」

「良かったわ。お菓子もどうぞ、召し上がれ。ああ嬉しいわ。こうやってカルヴィナともお茶会をしたいなって、ずっと考えていたのよ」

「ありがとうございます。そう仰っていただけて嬉しいです」


 ジルナ様の傍らには、編みかけの小さな靴下があった。





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