大地主と大魔女の娘


 今日も、実に長い一日だった気がする。

 地主様からもうこれ以上、みっともないって思われたくない。

 面倒な娘だと、ため息つかれたくない。

 そんな想いが私を駆り立ててくれた。

 じゃあ、まずはきちんとした装いとやらから入ろうか、となった。

 窮屈なコルセットも我慢した。

 少しでも女らしい体つきに見せる物と差し出されては、黙って頷く他にない。

 髪も高めに結い上げて、項を見せるのが今流だと言われれば、できるだけそれに近づけようとした。

 他には言葉使いやら、気の利いた挨拶の仕方とやらを学んだ。

 にわか仕込みもいいところだけれど、何もしないよりはマシだと思う。


 少しでも、あの方の隣でも恥ずかしくないように、なりたい。


 そんな想いを明確に口にしないまでも、自覚している自分に驚きが隠せない。

 どうしてそんな思いに囚われるようになってしまったのだろう。

 いつから?

 思い起こせない。

 世の中の女の子は、こんな気持ちに襲われているのだろうか。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・

 
 ――迎えにきてくれるよ。

 スレン様はそう笑って請け負ってくれたが、どうだろうか。


 一人になった途端に、またあの気持ちがぶり返してきた。


 嫌に自分の物足りなさが浮き彫りになって、情けなくてたまらなかった。

 自分は自分でしかない。

 そう自身に言い聞かせては素知らぬ顔で、面を上げてみる。

 だがすぐに虚しさに取り付かれてしまうのは、何事なのだろう。


 自分のいたらない部分や、みっともない弱さにばかり目が行ってしまう。

 そんな風に気にしてみても始まらない。

 それこそ、卑屈な思いで一杯になってしまう自分が嫌だ。

 嫌だ嫌だ嫌だ。

 自分なんか、本当に嫌だ。

 どんなに嫌がっても自分はどこまでも付いてくる。

 嫌だ嫌だと自分自身にすら繰り返されては、たまったものではないだろう。


 粗末で好きになれない自分を、尊敬し好きだと思う地主様の前に晒したくない。


 でも、会いたい。

 矛盾する想いは募るばかりで、何かにつけては落ち込んでしまう。

 そうして暗い顔を見せるのが嫌で俯いてばかりいた。

 自分のつま先だけを見つめてやり過ごす。


 気が付けば思い浮かぶのは、お二人の並ぶ姿ばかりだった。

 
 
 綺麗だったなあ。

 ああいうのを絵になるって言うのだろうなあ。


 あの綺麗な方は私の視線に気がついておられた。

 だからだろう。

 私を見てにっこりと笑いかけられたのだ。


 無礼だったと思ったので、慌てて頭を下げて背を向けた。

 こういう時、思い切り駆け出せない自分の足が憎い。

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