大地主と大魔女の娘
今日も、実に長い一日だった気がする。
地主様からもうこれ以上、みっともないって思われたくない。
面倒な娘だと、ため息つかれたくない。
そんな想いが私を駆り立ててくれた。
じゃあ、まずはきちんとした装いとやらから入ろうか、となった。
窮屈なコルセットも我慢した。
少しでも女らしい体つきに見せる物と差し出されては、黙って頷く他にない。
髪も高めに結い上げて、項を見せるのが今流だと言われれば、できるだけそれに近づけようとした。
他には言葉使いやら、気の利いた挨拶の仕方とやらを学んだ。
にわか仕込みもいいところだけれど、何もしないよりはマシだと思う。
少しでも、あの方の隣でも恥ずかしくないように、なりたい。
そんな想いを明確に口にしないまでも、自覚している自分に驚きが隠せない。
どうしてそんな思いに囚われるようになってしまったのだろう。
いつから?
思い起こせない。
世の中の女の子は、こんな気持ちに襲われているのだろうか。
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――迎えにきてくれるよ。
スレン様はそう笑って請け負ってくれたが、どうだろうか。
一人になった途端に、またあの気持ちがぶり返してきた。
嫌に自分の物足りなさが浮き彫りになって、情けなくてたまらなかった。
自分は自分でしかない。
そう自身に言い聞かせては素知らぬ顔で、面を上げてみる。
だがすぐに虚しさに取り付かれてしまうのは、何事なのだろう。
自分のいたらない部分や、みっともない弱さにばかり目が行ってしまう。
そんな風に気にしてみても始まらない。
それこそ、卑屈な思いで一杯になってしまう自分が嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ。
自分なんか、本当に嫌だ。
どんなに嫌がっても自分はどこまでも付いてくる。
嫌だ嫌だと自分自身にすら繰り返されては、たまったものではないだろう。
粗末で好きになれない自分を、尊敬し好きだと思う地主様の前に晒したくない。
でも、会いたい。
矛盾する想いは募るばかりで、何かにつけては落ち込んでしまう。
そうして暗い顔を見せるのが嫌で俯いてばかりいた。
自分のつま先だけを見つめてやり過ごす。
気が付けば思い浮かぶのは、お二人の並ぶ姿ばかりだった。
綺麗だったなあ。
ああいうのを絵になるって言うのだろうなあ。
あの綺麗な方は私の視線に気がついておられた。
だからだろう。
私を見てにっこりと笑いかけられたのだ。
無礼だったと思ったので、慌てて頭を下げて背を向けた。
こういう時、思い切り駆け出せない自分の足が憎い。