大地主と大魔女の娘
聞けばあのお方は公爵様のお嬢様なのだそうだ。
納得だ。
公爵様と言えば、王族の方々に近いご身分のはず。
同じ女と言えど、これほどまでに違いを見せつけられると申し訳ないとしか思えなくなった。
あの方こそが地主様の想い人である御婦人。
地主様は有力者とはいえ爵位があるわけではなく、努力し続けて実力で神殿での立場を取られたそうだ。
ますます、すごいと思う。
地主様は平等なのだ。
きちんと税を収める人には加護を。
そうでない者にはきちんとするようにと促すだろう。
おばあちゃんの事を責める気はない。
人の和から外れて、何も知ろうとしなかった自分が悪いのだ。
いろいろ、いろいろ考える。ぐるぐる回るのはとりとめもないことばかりだ。
そうなってしまうともう、どこを探しても浮上するきっかけが掴めなくなる。
そうやって導き出された答えは大抵がどうしようもないものばかりだ。
本当に救いようのない事を、なぜこうも思いつけるのかが不思議だった。
我ながら卑屈極まりなくって、泣けてくる。
いくらどんなに目に見える努力をしてみても、全く無意味でしかないとしか感じない。
そんな事を口にしたら最後、自分自身をも無意味と意味付けてしまいそうだから、そこは歯を食いしばってこらえた。
そんな事、思っても言ってはならない。
そう言い聞かせて耐えた。
優しく教えてくれるリディアンナ様のためにも、必死で笑った。
そんな調子で迎えた三日目。
たったの二日と半分の日付であっても、私には拷問に近い長さに感じた。
それでいて、ずうっとあの日からの平行線であるかのような、長い長い時間だった。
待つ身というものは、時間の感覚がズレているに違いない。
心はあの、地主様のお庭でされたやり取りに置き去りのままなのだから。
それでいて、実際はきちんと日付も変わっている。
どうしよう。
日にちが置かれた分、頭が冷えたなんてものではない。
「カルヴィナ?」
懐かしい声に、うるさいくらい胸が高鳴った。
カーテンにくるまって、隠れているつもり。
私はカーテン、私はカーテンと意味不明に言い聞かせながら。
足音が遠ざかった気がして、ほっと息を吐いた。
と、思ったら勢い良く近づいてきたものだから、心臓が飛び上がった。
「大きなミノムシがいるな」
その後、後ろから抱きしめられてしまった。
「何か言ってくれないか?」
ミノムシですから。
ミノムシは口がきけません。
そんな意思表示も込めて、カーテンにくるまる。
だが、あっさりと砦は破られ、ミノムシは丸裸にされてしまった。
「カルヴィナ。まだ、いじけているのか?」
いじけて何ていない!
そうやってムキになってしまう辺りが、その通りだと思える。