大地主と大魔女の娘
大きな手のひらに、すっぽりと頬を包み込まれる。
のぞき込むようにしていた、目線が合わされた。
もう片方の手はゆっくりと首筋を伝っていた。
指先がゆっくりと、私という線をなぞって行く。
「ようやくこちらを見てくれたな、カルヴィナ」
ひとつ、瞬きをすると涙が伝い、零れ落ちた。
地主様だった。
また知らない男の人という顔を見せられて、私は怖くなってしまった。
さっき、地主様に触れられた場所が熱い。
そっと見下ろせば、胸元のリボンは解かれ、大きく開かれたままだった。
慌てて隠すように胸元に手をやったが、大きな手に邪魔されてしまう。
それに加えて囁やき込まれた言葉もまた、私を追い詰めてくる。
「カル、ヴィナ……。」
またあの、掠れた声に呼ばれて我に返った。
目の前には地主様の顔があった。
近い。
だから少し、首をすくめて後ろに下がろうとした。
それを許さないように、顎をすくい上げられてしまう。
鼻先が微かに触れ合う。
吐息も、また……。
「嫌っ!!」
――パンッ!
乾いた音が響いた。
「ご、ごめな、さぃ」
ぶってしまった。
思わず、無意識の内に手が出ていたのだ。
何てことをしてしまったのだろう。
直後、じんと痺れたのは手のひらだけでは無かった。
今まで見られた事のないような、鋭い目付きで睨まれたからだ。
体中が麻痺して動けなくなってしまう。
そこに覆いかぶさるように、地主様が寝台に両手を置いた。
「おまえが俺を焦らすから悪い。それにその格好は、誘っているのだろう?」
そんなつもりなんかじゃない。
首を振りながら、胸元を隠すようにした。
解け落ちたリボンが掠める。
慌ててリボンを結ぼうとしたが、うまくは行かない。
指先が震えて、思うように動いてはくれないのだ。
不自由なのは足だけで間に合っている!
思い通りに行かないもどかしさに、癇癪を起こしそうだと思った。
こんなにも間近で見つめられたまま、必死でリボンを結ぼうとしている姿は、さぞや滑稽に違いない。
そう思ったら、また泣けてきた。
「……っ、ぅえっ」
こらえきれずしゃくりあげると、体を引き寄せられた。
「ああ、ああ! 違う。俺が悪かった。また、おまえを責めるような事を言ったな。許せ」
泣きやもうにも、嗚咽が止まらなかった。