大地主と大魔女の娘

 安心したせいもある。

 地主様だ。

 ぎゅうと抱きしめて包まれて安心した。

 地主様だ。

 もう、来ないかと思っていた。

 あんまり期待してはダメだと、自分に言い聞かせてもいた。

 でも、来てくれた。


 何とも言えない気持ちを、どう表せばいいのかわからない。


 地主様の香りと体温に包まれて、恥ずかしくなってしまう。

 まだ胸がはだけたままだ。

 腕で庇いながら、もぞもぞと体をずらそうとした。

 そんな風に身を任せきれない私をどう思ったのか、不満そうな声が降ってきた。


「カルヴィナ。そんなに警戒しないでくれ、と言っても無理……か」


 そっと体を離されたと思ったら、地主様はリボンを結び直してくれた。

 ホッとして、少し肩の力が抜けた。

 と、思ったらまた紐解かれてしまった。


「!?」

 気が付けば背中を寝台に預けて、天井を見上げていた。


「ここならお前にしか見えないから、いいだろう?」


 何を言われているのか、理解できなかった。

 混乱したまま、自分の鼓動を跳ねるのを聞いている。

 その心臓の上に、温かなぬくもりを感じて我に返った。


 ここなら――。

 それはすなわち、私の心臓の上だった。


「やぁ!」

「カルヴィナ」


 かすれた声にすら、肌を嬲られたように思えて、ただただ震えていることしか出来ないでいた――。

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 地主様の動きが止まった。

 何の前触れも無く、ピタリと。

 驚いてしまい、思わず見上げた。


 遠くから誰かの、忙しそうな足音が近づいてきた。

 よくよく耳を澄ませば、馬のいななきも聞こえてくる。

 誰かが訪ねてきたに違いない。

 そう思ったら、控えめに扉を叩く音がした。


「レオナル様。申し訳ありませんが、お急ぎを」


 そっと気を使うように声を掛けられた。

 声の主はエルさんだった。


「エルさ……んぅ!」


 思わず確かめるようにその名を口にした途端、口付けられてしまっていた。

 唇同士をそっと合わせるようなものではなく、噛み付かれたと表現するのが相応しい気がする。

 口付けというよりは、口封じだった。

 どうしたことか、怒らせてしまったようだと言うことだけは伝わってくる。

 眉根を寄せて耐えていると、勢い良く抱き起こされた。

 また、ぎゅうと抱きすくめられてしまう。


「もう少し、時間がかかる。だが必ず迎えに来るから、待っていてくれ」


 そう言い残すと、地主様は去って行った。

 私はといえばほうけたまま、言葉もなくその背を目線で追うだけだった。

 レオナル様。

 私は本当にミノムシになってしまったかのように、何の言葉も出てこなかった。


 
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