大地主と大魔女の娘
時に連れ去られ行く者
まるであやすような手つきと口調に、私は子供じゃないと文句を言いたくもなったが、いかんせん眠い。
その手つきが心地よくてウトウトしてしまう。
抱きかかえられて廊下を進む。
どこか別の部屋でお休みであろう、地主様を目指して。
差し出された彼の手を取って、部屋を出た。
これは夢だ。
夢なんだ。
きっと夢に違いない。
そうでなければ説明がつかない。
ここはジルナ様のお屋敷で、スレン様はいくら親しかろうとも部外者だ。
そんな人がこんな夜更けに、しかも寝室に訪ねてこれるはずがない。
『それが出来るんだよ。さすが、僕だろ?』
ふふ、と小さく笑いながら、私の前髪を自分の顎先でかき分けながら、呟く。
スレン様のまとった外套(マント)にくるまれて、あたたかい。
おおよそ彼に似つかわしくないような、夜闇を切り抜いたかのような色だった。
おかげで私というカラスは、厳重に闇にしまわれて人目には付きにくかろう。
いつの間にか心地よい揺れは収まっていた。
話し声が聞こえる。
拾い上げた声音は地主様のもの。
私の意識は、嫌でも現実に引き戻された。
・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・:*:・。・
「姉上。一体どういうつもりなのですか?」
「あなたこそ、どういうつもりなの? レオナル」
「どういうつもり、とは?」
「私が聞いているのよ」
緊迫した空気であることが、口調からも伝わってくる。
それでも地主様の声は静かなものであったし、ジルナ様も同じだった。
お互いを思いやってこそのものだろう。
扉の隙間から漏れてくる声だけでは、二人の様子をはっきりと知ることは出来ない。
でもその分、余計に二人の緊張した状態が感じられる。
私は眠気も吹き飛んで、耳を澄ませてしまっていた。
こんな事をするのは間違っている。今すぐに立ち去りたい。
そう思って胸元にすがったが、スレン様はびくともしなかった。
きっぱりと拒否されたと知る。慌てて降りようともがいた。
でもそれもまた、封じ込めるように抱き込まれてしまっては、どうしようもない。