大地主と大魔女の娘

時に連れ去られ行く者



 まるであやすような手つきと口調に、私は子供じゃないと文句を言いたくもなったが、いかんせん眠い。

 その手つきが心地よくてウトウトしてしまう。

 抱きかかえられて廊下を進む。

 どこか別の部屋でお休みであろう、地主様を目指して。


 差し出された彼の手を取って、部屋を出た。

 これは夢だ。

 夢なんだ。

 きっと夢に違いない。


 そうでなければ説明がつかない。


 ここはジルナ様のお屋敷で、スレン様はいくら親しかろうとも部外者だ。

 そんな人がこんな夜更けに、しかも寝室に訪ねてこれるはずがない。


『それが出来るんだよ。さすが、僕だろ?』


 ふふ、と小さく笑いながら、私の前髪を自分の顎先でかき分けながら、呟く。

 スレン様のまとった外套(マント)にくるまれて、あたたかい。

 おおよそ彼に似つかわしくないような、夜闇を切り抜いたかのような色だった。

 おかげで私というカラスは、厳重に闇にしまわれて人目には付きにくかろう。

 いつの間にか心地よい揺れは収まっていた。


 話し声が聞こえる。

 拾い上げた声音は地主様のもの。

 私の意識は、嫌でも現実に引き戻された。


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「姉上。一体どういうつもりなのですか?」

「あなたこそ、どういうつもりなの? レオナル」

「どういうつもり、とは?」

「私が聞いているのよ」


 緊迫した空気であることが、口調からも伝わってくる。

 それでも地主様の声は静かなものであったし、ジルナ様も同じだった。

 お互いを思いやってこそのものだろう。


 扉の隙間から漏れてくる声だけでは、二人の様子をはっきりと知ることは出来ない。


 でもその分、余計に二人の緊張した状態が感じられる。

 私は眠気も吹き飛んで、耳を澄ませてしまっていた。

 こんな事をするのは間違っている。今すぐに立ち去りたい。

 そう思って胸元にすがったが、スレン様はびくともしなかった。

 きっぱりと拒否されたと知る。慌てて降りようともがいた。

 でもそれもまた、封じ込めるように抱き込まれてしまっては、どうしようもない。


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