大地主と大魔女の娘
ちゃんと聞いて、フルル――。
そう、言われた気がした。
嫌だ。聞きたくなんてない。
頭を振って耳を塞いだけれど、どうしてか二人の声は響いてくる。
「巫女王様の体調は思わしくないと聞くわ」
「ほんの少しだけだ」
「今までにそんな事なかったわ。だから、周りだって余計に深読みする」
「確かにそうかもしれない。ご高齢であるから昔より、回復が遅いだけだ」
「あなたに巫女王様の、何がわかるって言うのレオナル?」
「巫女王様からのお言葉だ。心配はいらないと」
「側仕えたちの、でまかせかもしれないでしょう。あなただってもう、しばらく巫女王様にお会いしてないのでしょう?」
「……。」
「だからこそ、周りが動き始めたんじゃないの? 現にジャスリート公も動いているようね。その証拠にルゼ嬢があなたの所に押しかけた」
「それは、姉上。あなたが……。」
ガシャン!
何かを言いかけた地主様を遮るように、ジルナ様が大きな音を立てたようだった。
勢い良く立ち上がったせいで、茶器がテーブルから落ちたのだろうか。
「私のリディを神殿に何てやるものですか。絶対によ。あの子の、普通の女性としての幸せを奪うような真似はさせない」
「姉上。あまり興奮すると身体に障る」
「レオナル。貴方が大魔女の娘を連れてきたのは、私たちの意見と一緒だったからでしょう? そうよね」
「姉上……。それは」
地主様は黙り込んでしまった。
それが答えだと言うことだろうか。
「何とか言ったらどうなの、レオナル? 税を納めずにいたあの子を召し上げて、次期、巫女王として神殿にあげるために連れてきたのではなかったの。養女にすれば名目上でも、ロウニア家から輩出された血筋と認められる。そうすればリディを盗られることもない。貴方は望みの地位を築ける。あの子だって何に煩わされることなく、神殿の奥深くで暮らせて幸せでしょうに」
「それが本当に、カルヴィナの幸せだとでも?」
「あの子は人を恐れているわ。特にあなたをね、レオナル」
場が凍りついたような気がした。