大地主と大魔女の娘

 差し出された手に、手を重ねていた。

『そう。それが正しい選択だ。フルルも、僕も』

 スレン様は強く言い切った。
 まるで自分にもこれが正しいのだ、と言い聞かせているみたいだった。
 ぎゅっと手を強く握られる。

『そうでしょう、フルル?』

 
 首を横に振った。

『……わかりません』

『じゃあどうして僕の手を取ったの?』

『それは』


 息を呑む。それは、それは……怖いからだ。

 言葉にしてしまうのも恐ろしい。

 これから先、地主様の側に居れたとしても、その時――。

 彼はどんな目で私を見るのだろう。

 そんな彼を私はどうやって見返すのだろう。


 そのいつか来る時、二人を隔てているものの深さを、私はちゃんと見つめる事が出来るだろうか?


 自分自身に尋ねてみても、返るのは胸の痛みだけだった。

 苦しくなって、スレン様を見上げた。

 この痛みを繰り返してきたであろう、彼こそがこの答えを知っているに違いない。

 そう期待した。

 スレン様の瞳に優しい光が宿る。


『それはね』


 やっぱり私の甘えた期待通りに、続きを拾ってくれた。


『それはフルルも僕と一緒だからだ』

『一緒?』

『そう、一緒だ』



 虚ろなまま、言葉を繰り返すと、同じように繰り返された。


『怖いよね。同じように物を眺めて、似たような気持ちになれたとしても、違いすぎるんだもの。時というものに連れ去られ行く者とそうではない者の隔たりは、あまりにも大きい。そうでしょ、大魔女の……森の娘?』


『私は、私はっ!!』

『うん』

『やっぱり本当なの? おばあちゃんが教えてくれたような、森から授かった娘であるって』

『うん。間違いないよ。僕たちの、仲間だ』


 うっとりと。

 夢見るような眼差しに乗せて、スレン様は歌うように言った。


『フルルはまだ幼いから、実感がわかないだろうけど。一緒だよ。僕たちと一緒に時が流れてゆく者を、見送る定め』


 そうだ。だからこそ、おばあちゃんを見送ったのだ。

 次は? 次は誰を見送る事になるの?

 次々と浮かぶのは私に優しくしてくれた人たち。

 ミルアにジェスに村長さん。

 カールにリュレイとキャレイ。

 お菓子屋さんのおかみさんに旦那さんにルボルグ君。

 お屋敷のお姉さんたち。

 ジルナ様にギル様にリディアンナ様。それに地主様。


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