大地主と大魔女の娘


 おばあちゃんは、死の間際に教えてくれた。


 おまえはわたしの、森のあの方が与えて下さった娘。

 ただひと時であったとしても、あの方はおまえと過ごすことをお許し下さった。

 愛しい……哀れなわたしの娘。

 わたしの我がままでおまえを平穏から遠いこちらに、呼び寄せてしまった。

 許しておくれ。

 わたしには時が迎えに来てくれるから、先にあの方の御そばに戻れる。

 でも、おまえは違う。

 それでも。必ずあの方は迎えを寄こすから、それまでの辛抱だよ。

 だから、心していておくれ。

 おまえは大魔女の、森の娘だ。

 誰にも心を奪われてはならないよ。

 特に、時に連れ去れて行く者たちには――用心しておくれ。


 さもなくば、わたしと同じ気持ちを味わわせてしまう事になるだろうよ。


『おばあちゃん。ううん、お母さん』


 最後の最後だけ、こっそりとそう呼んだ。


 私に命を与えてくれた人は、最期に微笑んでくれた。

 その眦からは涙がひと雫、伝った。

 乾いた唇がありがとう、と形作るのを見守った。

 握り締めた手のひらから、静かに、でも急速に熱が引いていった。

 それに追いすがっても、あまりにも呆気なく熱は去って行った。


 これが時に連れ去られて行くと言うことなのか。


 私はそれからしばらく、その恐ろしさと寂しさに苛まれて、泣きじゃくる事しか出来なかった。


 ――目蓋を閉じる。


 ごめんね、約束、守れなかったみたい。


『どうして泣くの?』


 そう言いながらも、スレン様はずっと頭を撫で続けてくれていた。


 
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