大地主と大魔女の娘
ひどく優しいものに包まれている夢を見た。
自分が猫にでもなって、ひだまりの中、まどろむような。
正体の見えない心地よさ。
例えば降り注ぐ陽射しのように、与えられるだけの。
それがもどかしくて、手を伸ばしていた。
くすくすと小さな忍び笑いが、俺をくすぐる。
あるはずのない影に手を伸ばした。手応えがあった事に驚きが隠せない。
逃してはならない。やっと妖精を捕らえられたのだ。
今にも消え去ってしまいそうな儚さを引き寄せる。
「これは夢か?」
抱き寄せた身体が、か細く震えながらも頷いたように感じた。
夢自身から肯定された。
胸に広がり行くのはあたたかな想いと、何ともしがたい――黒い想い。
(この浮き世離れした娘を俺の側に……留めおきたい)
二度と、彼女の本来あるべき清らかな場所になど、帰してなるものか。
妖精の抱き心地に酔いしれる。
夢は立ち去ることなく、舞い降りたままでいてくれた。
それに嬉しさがこみ上げてきて尋ねた。
「だったら俺の好きにしていいのだな」
いつも夢の中で幾度となく彼女を……。
彼女に吐息を埋め、熱を送り込んだだろう。
淡雪が熱に耐え切れず溶け落ちた所で、いつも目が覚めていた。
「はい……。レオナル様のお好きなように、お役立て下さい」
夢が答えた。
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縫い止めた手首の細さにめまいらしきものを覚えながら、自分の下に組み敷いた。
無邪気に信じてくれているであろう絆を今、踏みにじろうとしているのかもしれない。
姉の言った言葉が蘇った。
――あの子は人を恐れているわ。何よりも、貴方をね、レオナル。
意識が覚醒して行く。それと同時に再び夢見心地になって行く。
柔らかでありながら弾力のある肌は、どこもかしこも艷やかで甘い果実そのもののようだった。
胸元に唇を埋めると、鼓動が伝わってくる。
そこに印を付けるのが、ここ最近の俺たちの間の儀式のようなものになっていた。
鼓動の度に俺の想いを刻んで欲しいと、俺がそう望むからそう始めた。