大地主と大魔女の娘


 ひどく優しいものに包まれている夢を見た。

 自分が猫にでもなって、ひだまりの中、まどろむような。

 正体の見えない心地よさ。

 例えば降り注ぐ陽射しのように、与えられるだけの。

 それがもどかしくて、手を伸ばしていた。


 くすくすと小さな忍び笑いが、俺をくすぐる。


 あるはずのない影に手を伸ばした。手応えがあった事に驚きが隠せない。

 逃してはならない。やっと妖精を捕らえられたのだ。

 今にも消え去ってしまいそうな儚さを引き寄せる。


「これは夢か?」


 抱き寄せた身体が、か細く震えながらも頷いたように感じた。

 夢自身から肯定された。

 胸に広がり行くのはあたたかな想いと、何ともしがたい――黒い想い。


(この浮き世離れした娘を俺の側に……留めおきたい)


 二度と、彼女の本来あるべき清らかな場所になど、帰してなるものか。


 妖精の抱き心地に酔いしれる。

 夢は立ち去ることなく、舞い降りたままでいてくれた。

 それに嬉しさがこみ上げてきて尋ねた。


「だったら俺の好きにしていいのだな」


 いつも夢の中で幾度となく彼女を……。

 彼女に吐息を埋め、熱を送り込んだだろう。

 淡雪が熱に耐え切れず溶け落ちた所で、いつも目が覚めていた。


「はい……。レオナル様のお好きなように、お役立て下さい」


 夢が答えた。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・:*:・。・


 縫い止めた手首の細さにめまいらしきものを覚えながら、自分の下に組み敷いた。


 無邪気に信じてくれているであろう絆を今、踏みにじろうとしているのかもしれない。


 姉の言った言葉が蘇った。


 ――あの子は人を恐れているわ。何よりも、貴方をね、レオナル。


 意識が覚醒して行く。それと同時に再び夢見心地になって行く。

 柔らかでありながら弾力のある肌は、どこもかしこも艷やかで甘い果実そのもののようだった。


 胸元に唇を埋めると、鼓動が伝わってくる。

 そこに印を付けるのが、ここ最近の俺たちの間の儀式のようなものになっていた。


 鼓動の度に俺の想いを刻んで欲しいと、俺がそう望むからそう始めた。





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