大地主と大魔女の娘
幼い子供のように泣きじゃくりながら、か細い腕で必死に巫女王様にしがみついている。
それを諌めようとシオンが動いたが、じいさんに目で制された。
スレンもシオンを見下すような一瞥(いちべつ)をくれると、少女に歩み寄った。
膝を折り目線を同じにして、少女の顔をのぞき込む。
『迎えられた姫君(クレメン・ティーナレ)』
そう歌うように呟くと、少女の頭を撫で始めた。
『ここに来て良かっただろう? 君の会いたかった人にこうして会うことが出来たもの』
艷やかな黒髪の一房を弄びながら、スレンが言う。
少女は直ぐ様、二度も三度も頷いた。
それを見て、奴はこれ以上もないくらい笑った。
こちらの背筋に寒いものが通り向ける程の、笑みだった。
満足そうに――だが、スレンの眼差しは、少女を通り越したものを見据えている気がしてならない。
「……スレン」
誰もが息を詰めて状況を見守る中、自身の乾いた声が響きわたった。
「その娘が大魔女の娘か?」
スレンは言葉を発さなかった。
ただ小馬鹿にしたような一瞥(いちべつ)を、投げて寄越しただけだ。
何を今さら訊いてくるのか、といった所だろう。
スレンは静かに受け流した。視線も同じく。
その流れ着いた先は、少女の方だ。
その眼差しにならう。
少女の身体は小刻みに震えていた。
嗚咽のせいだけでは無さそうだ。
巫女王様にしがみつく指先に、力がこもったのが見えた。
明らかに娘が怯えたのが伝わってきて、何とも苦い気持ちが広がってゆく。
この胸を狭める想いが何なのか、説明がつかない。
酷い焦燥感だということだけは分かる。
苛立ちと失望のまま、一歩を踏み出す。
少女の身体が目に見えて強ばった。
そんな背筋が目に飛び込んでくる。
白くか細い、明らかに自分とはかけ離れた華奢な造りは、それだけで罪作りだ。
こんなにも罪悪感を抱かせる。
ただ、声を上げただけだというのに。
忌々しく思ってこそはみたものの、口には出さなかった。
代わりに想いの丈を、眼差しでぶつけた。