大地主と大魔女の娘
きゃあきゃあとはやし立てる笑い声の中、どう反応したらいいのか分らないでいた。動けない。
そんな私に構うことなく、彼女たちのおしゃべりは止まらなかった。
「ねえ、あなたはどう思った?」
二人の青い眼差しが、遠慮なくぶつかってくる。
その楽しそうな輝きに怯みながら、どうにか見返した。
「どう?」
「シオンの事。どう思った? 無礼だったじゃない。嫌な感じよね。高慢っていうの?」
「いえ、あの、そんな。でも正直、怖かったです」
「そうよね。でもあの人、ただの威張りたがり屋のだけだから。たいしたことないわよ」
大人びた彼女は、手を追い払うようにしながら、そう言ってのける。
「全く、シオン副団長ときたら! 神官長さまに叱られていたわね。いい気味」
ずい分と可愛らしい容姿の彼女の口調も、同じように容赦がなかった。
「そうそう! それよりも、レオナル様はどう? どう思った?」
その名前にどきりとする。
二人が身を乗り出して、私の様子を伺っている。
どうにか微笑んで、曖昧に首を傾げるしかなかった。
「レオナル様……。ああ、最後にスレン様に質問していた方よ。茶色い髪の人ね。威厳があったでしょう? 彼、あなたにずっと礼をとっていたんだから!」
「……そんな、ことを私に?」
搾り出すように尋ねてから、頭を振った。
彼は私を睨みつけていた。
あれは命じられたからこその、行動だ。
怖かった。たまらなく、怖かった。
また再び彼の前に立つなんて、予想もしていなかった。
地主様が「初めて」目にした大魔女の娘を目にして、何を感じたか何て想像するのも恐ろしかった。
――また、みっともないって思われちゃったかな。
そんな想いに囚われていても始まらない。
必死で考えを追い払うべく、彼女たちに向き合った。
「どう、素敵な方だとは思わなかった?」
「あの、あんまり皆さんをよく見ておりませんでした」
「なあんだ。残念ね。団長殿はさすが迫力があったのよ」
うっとりと頬を染めて地主様の事を話す、初対面の女の子達を前にして、どうしてか胸が痛んだ。
「本当に。シオンも見習うがいいわ」
「そうよそうよ」
そんな調子で次々と言われて、私は口をはさむことが出来ないまま、黙って聞いていた。
「どうかした?」
そう話しの流れのついでのように聞かれた。
答えるよりも早く、その子は頷いた。
「ああ。さっきも言ったけど、なかなか覚えられないものよね、人の名前って。ワタシの名前はキーラよ。そっちはフィオナ。改めてよろしくね」
「よろしくお願いします。キーラ様にフィオナ様」
「様なんかいらないわ。あなたは何て呼んだらいい?」
「エイメ、です」
「エイメ……。どこかで聞いたなあ。エイメ・エイメ・エイメ? 古語で娘の意味よね、確か?」
「はい、そうです」
「わかったわ。よろしくね、エイメ」
さらりと確認するとそのまま落ち着いてしまった。
何も詮索されない事に驚く。
「ん? なあに、どうかした?」
キーラがさばけた調子で気を遣ってくれる。
「あの、訊いてもいいですか?」
「うん、はい。なあに? 何でも訊いて」
「いいよ~!」
「あの……。二人とも皆さんの事が好きで、その中でも特にシオン様がお好きなのね?」
キーラはお茶を吹き出して、フィオナはお菓子にむせてしまった。
落ち着くまで、しばらくかかった。
それから二人とも、何も答えてくれなかった。