大地主と大魔女の娘
茶器を片すと、キーラは呟いた。
「いやはや。エイメには参った。さすが巫女王候補」
「さてと。じゃあ、そろそろお披露目会の準備に取り掛かろうか」
フィオナが私の手を取ると、部屋の奥の衣装棚と思しき前へと、促された。
「ワタシ達は武器も持てない。頑丈な鎧を身に纏う事も、身を守る盾を持つことすらも出来ない」
「でもね」
「装う事は出来るの」
「だから訊いたの、私たち。あなたが誰を好み、想って装いたいか。それを参考にしてエイメを綺麗にしてやろうと思っていたから」
「色んな騎士の人がいるけど、中でも副団長殿にはイラっとさせられるのよ。威張るから。だからね、あの男の鼻をあかしてやりましょうよ。それだけじゃなくて、他の騎士達を屈服させてしまいましょうよ」
そんなたいそれた事が出来るのだろうか。
はなはだ疑問だ。
そもそも何故、そんな必要があるというのだろうか?
「ねえ、あなたはどこのお嬢様だったの?」
ふいの質問に、大きく瞬きすることしか出来なかった。
耳を疑う。
「それとも」
フィオナは声をひそめて続ける。
「やっぱり、どこかの高貴な方の隠し子だって言うのが本当?」
「え! やっぱり、お姫様なの?」
どちらも違う。とんでもない。
「ふぅん。エイメがそう言うのなら、それでいいけど。でもね。これから先はあなたはお姫様であるべきよ。そう思わない? フィオナも」
「思うわ。すごく思う!」
「ええっと?」
「エイメだけじゃなくて私たちの誰もが、そうよね」
「そうそう。この国中の女の子は皆そうよ」
二人は口を挟むスキを与えてくれない。
仲良しの小鳥たちがさえずり交わしているかのような微笑ましさと、意味のわからなさに困惑する。
「ねえ、エイメ。あなたは誰を従えてやりたい?」
そう告げるとフィオナは、にっこりと笑う。
窓辺から陽の光の差し込む。
それが女神様の像にも当たる。
光の加減のせいなのか、女神様からもほほ笑みかけられているかのように見えた。