大地主と大魔女の娘
人が怖い。
男の人が怖い。
何もかもに怯える自分が嫌い。
恐れから背を向けた人になんであれ、真向かうのは勇気がいる。
そもそも自分にはそんな資格があるのだろうか?
「恐れながら巫女王様。エイメ様は少し緊張されているようですわ。ここはどうか私たちにお任せくださいませんか?」
「キーラ。それもそうね。落ち着くようなお茶も用意してあげてちょうだい。私たちは先に行って準備をしているから」
「かしこまりました」
そう言って慇懃に頭を下げて巫女王様を見送る。
扉がフィオナによって閉められてから、五つほど心の中で数えた頃、キーラが面を上げた。
「ほら、立ってエイメ。顔をあげなさい」
促されて、よろよろと立ち上がると、両手をぎゅっと掴まれた。
「怖気づくのも解るわよ。大勢の前で言葉を発さねばならないのだもの。誰だって緊張するに決まっているわ。言っておくけど、あなたを馬鹿にする人なんていないわ。どもろうがすっ転ぼうが泣き出そうが!」
「ほ、本当に?」
「当たり前でしょう。もしそんな輩がいたとしたら、それはワタシ達に対する挑戦とみなすわ。ねえ、フィオナ?」
「当然でしょ。それともなぁにぃ? エイメをこんなに可愛くした私たちを信用できないって言うのー?」
大丈夫、大丈夫と口々に繰り返しては、私の頬や手を撫でてくれる。
大丈夫。辛抱強く言って聞かせてくれる呪文は、何とも心強いものだった。
私もだんだんと元気が出てきた。それと疑問も。
だから思うままに尋ねた。
「どうして?」
「ん?」
「どうして、私によくしてくれるの? 会ったばかりなのに」
そういえば、地主様の所でも同じように訊いた気がする。
私にしてみたら本当に不思議なので、尋ねずには居られない。
二人とも顔を見合わせたあと、考え込んだ。
「理由? そんなもの、わからない。強いていえばエイメが頼りないからじゃない? 放っておけない雰囲気というか?」
「理由ねえ。ただ、まあ、巫女王様に頼まれたし。ここであなたに恩を売っておくのも悪くないかなーと思って?」
思いもよらない告白にぽかんとしてしまう。
うんうんと頷き合う二人を見つめる。
「少なくともワタシは応援したいって思っているのよ。だってさあ、何か決めてここに上がったのだとしても、やっぱり最初は勝手が分からないじゃない。それってすっごく心細いよね。ワタシがそうだったもの。四年前」
「キーラにもそんな可愛い頃があったんだー」
「お黙り。その時色々教えてくれた姉さん巫女達に感謝したもんね。だからじゃない」
「そうそうー。それとエイメが頑張ってくれると私達の評価も上がっちゃったりして! うふふ。立身出世~果ては素敵な殿方に見初められてー良家との縁談も来ちゃうかも」
「フィオナ。アナタ、腹黒さがダダ漏れているわ。気を付けて」
「キーラやエイメに取り繕っても無駄だし。さあ、行こうよ! 見せつけてやりに」
くすくすと忍び笑いを漏らす二人に手を引かれて、部屋を後にした。