大地主と大魔女の娘
今度連れてこられた部屋は、大きな広間といった所だった。
中庭に面していて、眺めが良い。
扉と窓という窓は開け放たれている。
広間に入りきれない人たちもいるようで、庭先に控えている人たちも居た。
それぞれくつろいだ様子で、おしゃべりして待っていてくれたようだ。
思ったよりも気安い雰囲気に、少しだけホッとした。
人々の視線が集まる中、奥で待つ巫女王様の元へと進む。
「本当に二人とも、心強いこと」
いくぶん持ち直した私を見て、巫女王様は微笑んだ。
それだけだったけど、巫女王様は全て承知の上かもしれないと思えた。
二人は相変わらず、巫女王様の御前ではおすまししているけれど。
「皆、静粛に」
静かな声だった。
けっして大きくはない。
でも、この場にいた全員に行き渡ったようだ。
巫女王様に促されて、息を詰めながら一歩を踏み出した。
カツン、コツ、カツン、コツ、と私の杖を付く音と、足音が嫌に響く。
少し膝を折るようにして腰を落とす。
もちろん、ふらついたが構わない事にした。
転ばなければいい。
体勢を立て直すのは得意だから、実際転んだことはあんまり無い。
それに、転んでも立ち上がればいいだけの話しだ。
私は私のままで皆の前に立つだけだ。
他にどうしようもない。
髪が黒いのも私。瞳が黒いのも私。
キーラとフィオナの気安さに触れたら、何かが吹っ切れた……気がする。
もういいや。構うもんか。
いくら嫌われようと蔑まれようと、これ以上何を無くすものがあるというのだろう?
大切なものは手放してしまったではないか。
巫女王様が頷くのを合図に、大きく息を吸い込んだ。
ひしめき合うのが団員の人たちだけではない事も、私を安心させた。
女の子も、いくらか幼い少年も少女もいた。おじいさんやおばあさん
も。
だが、たくさんの人々が集まっている事に変わりはない。
私はあまり何も考えないようにして、一息に言い放った。
「はじめまして皆様。エイメ、と申します。いたらない所も多いと思いますが、よろしくお願いします」
一段高いここからは、集まった人々が良く見渡せた。
その中から一歩、踏み出す人影があった。
その姿に息を飲む。
地主様だった。