大地主と大魔女の娘
彼は私の真正面に進み出て来た。
周りがざわめいた。
でもそのざわめきさえも、どこか遠くの出来事みたいに思えた。
彼の真剣な瞳に捕らわれる。
ひたと見据えられた瞬間、今度はそらすことなど出来なかった。
青い――藍色の瞳とかち合う。
そこに宿る光に私を責めるような、侮蔑の色は見当たらなかった。
ただ真摯な、ひたむきで真っ直ぐな光が私を射抜く。
そらすことなど許されないのだと知る。
もしかしたら殺されてしまうのではないか、とふと思った。
それくらいの威力があった。
目をそらしたら、負けだ。
何となくそう感じた。生死をかけた勝負に打って出たような。
目をそらしたら最後、一撃食らっているだろう――。
彼もまた瞳をそらすことなく、マントを払いのけると、その場に跪いた。
『はじめてお目にかかります。護衛団長のザカリア・レオナル・ロウニアと申します。以後、お見知りおきを――巫女王候補エイメ様』
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私は何も応えられなかったと思う。
曖昧に頷くしか。
それすらも微かに顎を引いただけではなかったろうか。
思い出せない。
頭の中が真っ白になってしまったのだ。
今、目の前で起こっていることを受け止めきれなかった。
何が起こっているのか。
ただ、ふらふらと心ここにあらずで、退出した覚えしかない。
スレン様に伴われて、広間を後にした。腕にすがる。
『お疲れさま、フルル』
お披露目会とやらを終えて、私はほっとしていた。
体中の力が抜けたと言った方がいのかもしれない。
キーラとフィオナの期待に、少しは応えられただろうか。
二人に感想を聞かなければ、判断がつかない。
ただ、おどおどした態度は良くないと言い聞かされたから、どうにか堪えた。
ものすごくドキドキして、喉がカラカラに乾いた。
部屋に戻ってすぐに、お水をもらった。
じわじわと言いようのない不安が膨れ上がってくる。
巫女王――候補?
巫女王様って誰が?
私に何が出来るというのだろう。
ただ流されてここに来ただけの子でしかない。
スレン様がどういうつもりなのか解らないが、流されすぎている自分にようやっと疑問を抱いた。
「皆、この子にもよく仕えてちょうだいね」
そんなお言葉をかけられていた自分。
今更ながら、恐れ多さに途方に暮れた。
先程からスレン様は何も仰らない。