大地主と大魔女の娘

水音の源にたどり着く。

 そこは綺麗に形作られた空間と呼ぶに相応しい。

 杯を逆さまに置いたように象られた彫刻が飾られ、その四方から水が流れ落ちていた。

 彫刻の周りを石が囲い、水が溜まる仕掛けになっているようだ。


 光る水しぶきと、先客に目を奪われる。


 真っ白い生き物が頭を垂れていた。

 いや、顎を引いて上目使いでこちらの様子を窺っている、といった方が正しいのかもしれない。

 清浄な気配に納得する。ここに心惹かれたのだ。

 獣もまた同じなのだろう。

 喉を潤し、水音を楽しんでいたに違いない。



 何て、綺麗。


 胸が痛んだ。


 私がまとうのは闇色。


 美しいものを見ると胸が痛むのはどうしてなのだろう――?


 私の姿を認めても、獣は逃げなかった。


 ただ耳を後ろに倒しただけだ。耳の先についた飾り毛が風になびく。


 静かな水音だけがこの場を支配している。


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 どれくらいの時間を掛けて歩み寄っただろう。

 とにかくゆっくりとだった。

 一歩進んでは獣の様子を見ながら、はやる気持ちを落ち着かせた。

 獣は私が側に寄っても逃げなかった。


『触れてもいい?』


 おずおずと手を伸ばすと、獣は自ら頭を擦り付けてくれた。

 巻毛に覆われた尾が左右に振れる。

 その事に安堵する。

『お利口さん。お名前はなんですか?』


 名を尋ねると獣は答えてくれた。


『デュリナーダ』

 驚きと嬉しさで何とか頷くのがやっとだった。

『デュリナーダ、いいこね』


 綺麗な獣の毛並みは白銀に輝いている。

 陽の光を浴びると、真っ白に見えるのだ。

 デュリナーダは月の光の方が、その毛並みが映えるかもしれない。

 そっと指先を絡め続けると、獣は寄り添ってきた。

 少し、重たい。


 寄りかかられて、自分を支えるので精一杯の私はよろめいてしまった。

 思わず、獣の首筋に両手ですがる。

 その拍子に手にしていた杖が転がって行った。


『あっ……。』


 デュリナーダはゆっくりと膝を折った。

 向かって右前、左前。

 そして後ろ足も同じく。

 おかげで無事に腰下ろすことが出来た。


 そうやって私を気遣ってくれたのだと知る。

 嬉しくなって微笑みかけた。




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