大地主と大魔女の娘


  
「エイメ様がお部屋にいらっしゃいません」

「しばらく一人になりたいと仰ったので、私どもは控えたのですが」

 もうじき日も落ちるだろう。

 いくら今日が暖かい日であったとしても、季節は冬を迎えようとしている。

 風が冷たくなってきている。

 ふと部屋の椅子に掛けられたままの、ショールを見つけた。

 彼女がここに来た時に羽織っていたものだ。

 俺の視線の先に気がついたのだろう。


「まだ着替えもされていないままなの、です。エイメ様」

「上着もご用意して差し上げればよかった……。」

 キーラがショールを手に呟いた。

「失礼ながら……。そうそう、遠くへは行けまい」

 自分で言っておいて、ひどく気分が悪かった。

 だが、そこに希望を見い出したいというのが本音だ。


 皆、あの娘の様子を思い起こしてなのか、口を閉じた。

 おぼつかない足取りで皆の前に立った娘。

 不安を押し殺したように、震える声で挨拶していた。

 すぐさま、前に歩み出ていた己に、揺らぐ眼差しをくれた。


 世話係りを言いつかった巫女達に負けないくらい、血の気を失った顔色のシオンに気づいた。


「とにかく手分けして探そう。どうした、シオン?」


「応答がない」

「何?」

「デュリナーダの……。獣の力を借りてエイメ様を探そうと、さっきから呼んでいるのだが応答がない」


 獣を聖句で縛り、使役する術者のシオン。

 シオンの力を獣が振り切った。

 それは何かもっと強いものに惹かれたからだ。


 何か――。

 それが何を意味するのか。

「シオン。おまえは獣の気配をたぐれ。そこに何かあるかもしれない。レメアーノ、おまえの獣はどうだ?」

「使わない方がいいね。引きずられる可能性がある。もう少し控えさせておこう」

「そうか。では、手分けして探そう。一刻以内に見つからないようなら、じいさ……神官長に報告だ」

「避けたいね、その展開」

「だったら行くぞ」

 よぎった可能性を振り払うべく、その場を後にした。


 
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