大地主と大魔女の娘



「力が使われたね。シオンだ。あちらのようだよ、団長」

 ほどなくして駆けつける。

 そこは中造りの庭と呼ばれる場所だった。

 巫女たちの居住所と男どもの宿舎とのちょうど、中間にある。

 巫女たちはこれ以上踏み込まないようにとするし、それは俺たちも一緒だ。

 もっとも、この許される境界ぎりぎりで出会いを期待する者もいるようだが。

 既にシオンは術の最中のようだった。

 その様子に目を奪われる。

 見つけた。


「……っ!」

「……。」


 レメアーノは思わず息をのんだようだ。

 俺は言葉もなく、ただ目を疑った。


 めあての少女は獣と寄り添っていた。



 シオンは呼びかけに応えない獣を取り戻そうと、今一度、聖句を試みているのだろう。

 ただならない雰囲気を察したのか、少女は獣を背に庇っていた。

 やがて獣は勝ち誇ったように宣言した。

『もう効かぬ!』

 跳ねるように後ろ足で立ち上がって見せる。

 その勢いのまま、少女へと甘えて身体をすり寄せた。

 まるで聖句を振り切れたのは、少女のおかげだとでも言いたげだった。


 大きな体で盛大に甘え、少女の髪を結わうリボンにイタズラを仕掛ける。


 術者に絶対服従であった獣は、もうどこにもいなかった。


「あなたの色が獣を魅了するのですか?」

 シオンが呆然としながら、導き出した問い掛けが聞こえた。

 少女は何の事か解らない、といった様子で小首をかしげてみるばかりだった。

 それよりも獣との戯れが気になるのだろう。

 奪われたリボンをつかんで引いている。

 そんな少女にシオンは性懲りもなく、同じ質問を繰り返した。


「あなたの、色が……。獣の心を惹きつけるのですか?」


『ふぉれだけであるか、バかァめ』


 獣の言う通りだ。

< 401 / 499 >

この作品をシェア

pagetop