大地主と大魔女の娘
静かに言って聞かせると、少女が首をすくめた。
飼い犬たちが怒られると覚悟した瞬間、似たような表情を見せる。
耳を後ろに思い切り倒して。
何故、この娘は俺をこのような瞳で見るのだろう。
ひどい胸騒ぎを覚えてならない。
だがその説明のつかない想いをやり過ごし、言葉を紡いだ。
「これからはけして一人で出歩いてはなりません。あなたが思うよりも、あなた様の置かれた立場は重い。その上、危ういのです。次期、巫女王候補というお立場をどうかご理解下さい」
「は、はい。申し訳ありませんでした」
「いや、謝る必要はありません。ただ、我々はあなた様の身を護るのが勤めであるという事も、お留め置き下さい。あなた様の御身に何かあれば、責任を問われる者もいるのだという事を。ご理解いただけますか?」
「はい……。わかりました。もう、お許しもないのに、一人で出歩いたりしません」
少女は真剣に、こくこくと幾度も幾度も首を縦にふって見せた。
素直な反応に満足する。
「何、一人でなければいいのです。その時は何なりと、このレオナルに申し付け下さい。お供いたしましょう」
「あ、ありがとうございます」
「では戻りましょう。風が冷たくなってきた。獣殿、エイメ様に手を貸してやってはくれないか」
『おまえに言われるまでもない』
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そうして無事に部屋に送り届けてから、既に六日が経っていた。
それきり、エイメ様の姿を見ることは無かった。
護衛の御召もない。静かだった。
だが、興味を惹かれれば、あの少女のことだから言いつけなぞ忘れるだろう。
そう踏んでいたから、少々脅かしすぎたのかもしれない。
気が付けば、あの水場へと足が向いていた。
今日もそこには、誰の人影も見当たらなかった。
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神殿に戻るなり、シオンが駆け寄ってきた。
「団長」
「何だ」
声を掛けてきた割に、シオンの歯切れは悪い。
「エイメ様は……。その」
「何だ!?」
「これからは迷惑をかけるといけないから、必要でない限り出歩かない、と仰っておられるようです」
「……!?」
「巫女たちから何があったのかと、責められました」
――もう、お許しもないのに、一人で出歩いたりしません。
その言葉に安堵した自分を責めた。