大地主と大魔女の娘


 ゆるやかな陽射しが肌に心地よい。

 窓際で書物を読んでいたのだが、眠気を覚えてしまう。

 場所を変えようと立ち上がった。

 それを頃合と見てか、キーラがショールを片手に近づいてきた。


「エイメ様。いかがです、少し庭を散策されませんか? 神殿の中にばかり引き篭られていては、息がつまってしまいますでしょう?」

「いいえ。大丈夫です」

「そうですか。出たくなったらいつでもお声を掛けてくださいましね?」

「はい。ありがとうございます」

 フィオナとキーラに、努めて明るい調子で促された。

 でも私ときたら、我ながら頑なだった。

 そっと、でも断固として首を横に振る。振り続けている。

 二人は顔を見合わせはするものも、無理強いはしてこない。


 出たら、いけない。あの方たちの面倒を増やすことになってしまう。

 いくら大丈夫だ、と言ってもらっても頷くのはためらわれた。

 私が歩くには護衛がいるという。

 それだけ、余計な人手がいるという事だ。

 彼の邪魔だけは絶対にしてはならない。


 いや……。私は思い知るのが怖いだけだ。


 自分の下した決断の結果を、目の当たりにする。

 地主様は私を忘れている。

 今度は騎士団長として私の前に立っている。

 それでも私に対する苛立ちは、初めてあった頃のものと一緒だった。

 やはり繰り返すのかと泣きたくなった。


 ただ、彼がもどかしいくらい怒りを抑えてくれているのが辛かった。


 それは私の立場もまた変わったからだ。

 好きに感情をぶつけてもいい相手では無くなったから、彼に忍耐を強いているのだろう。


 私は今「巫女王候補」として、彼の前に立っている。

 だったら、勤めを果たすまでだ。

 せいぜい大人しくして、彼の手を今度こそ煩わせたりなんてしない。


 会いたい。会いたくない。

 あの人に掴まれた手首が、ずっと熱帯びたままの気がする。


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