大地主と大魔女の娘


 無意識の内に、手首をさすっていたらしい。

 デュリナーダがそっと鼻先を寄せてきた。

『痛むのか?』

『いいえ、大丈夫よ。ありがとう』

 あれからこの白い獣は、ずっと傍らに寄り添ってくれている。

 それこそデュリナーダは、好きにどこに行っても構わない身になったのにもかかわらず、だ。

 わざわざ私に囚われている事もない。

 そう告げたら自分の意思で好きにしている、との答えだった。

 嬉しいし、心強い。

 その分いくらか、キーラとフィオナは遠慮がちになってしまったが。

 二人とも獣が少々怖いらしい。


 ――こうやって獣に慣れ親しむ私のことも。


『本当に少し、外に出てみぬか?』

『……。』

『我が一緒だ。だから護衛なんぞ必要ないわ!』

『デュリナーダ』

『何。ほんのその目と鼻の先だけだ。この部屋から数歩出るだけで良い。我は、エイメと陽の光を浴びて風に吹かれたい。ダメか?』


 ためらう私を気遣うデュリナーダが愛しく、また、申し訳無かった。


『ええ。そうね。本当にすぐそこ、ですものね?』


 キーラが心得たように、ショールを羽織らせてくれた。


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 辺りを見渡して、人影が無いことを確かめる。

 大丈夫。誰も見ていない。

 地面に直に座り込む。

 それだけで癒される気がした。

 風は冷たくも新鮮で、気持ちがスッキリした。

 やはり閉じこもったままでいては、考えもそうなってしまうのだ。

 改めて思い知った。


『ありがとう、デュリナーダ』

『何。礼を言われるまでもない』


 そう謙遜しながらも、白い獣は得意げに胸をそらせて見せた。


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