大地主と大魔女の娘
無意識の内に、手首をさすっていたらしい。
デュリナーダがそっと鼻先を寄せてきた。
『痛むのか?』
『いいえ、大丈夫よ。ありがとう』
あれからこの白い獣は、ずっと傍らに寄り添ってくれている。
それこそデュリナーダは、好きにどこに行っても構わない身になったのにもかかわらず、だ。
わざわざ私に囚われている事もない。
そう告げたら自分の意思で好きにしている、との答えだった。
嬉しいし、心強い。
その分いくらか、キーラとフィオナは遠慮がちになってしまったが。
二人とも獣が少々怖いらしい。
――こうやって獣に慣れ親しむ私のことも。
『本当に少し、外に出てみぬか?』
『……。』
『我が一緒だ。だから護衛なんぞ必要ないわ!』
『デュリナーダ』
『何。ほんのその目と鼻の先だけだ。この部屋から数歩出るだけで良い。我は、エイメと陽の光を浴びて風に吹かれたい。ダメか?』
ためらう私を気遣うデュリナーダが愛しく、また、申し訳無かった。
『ええ。そうね。本当にすぐそこ、ですものね?』
キーラが心得たように、ショールを羽織らせてくれた。
・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・:*:・。・
辺りを見渡して、人影が無いことを確かめる。
大丈夫。誰も見ていない。
地面に直に座り込む。
それだけで癒される気がした。
風は冷たくも新鮮で、気持ちがスッキリした。
やはり閉じこもったままでいては、考えもそうなってしまうのだ。
改めて思い知った。
『ありがとう、デュリナーダ』
『何。礼を言われるまでもない』
そう謙遜しながらも、白い獣は得意げに胸をそらせて見せた。