大地主と大魔女の娘
デュリナーダに寄り掛かりながら、草を摘んで冠を作った。
長さのある物を軸に、小さく花を咲かせた物を編み込んでいく。
こういう物を作るのが、実は得意だったりする。
ミルア。
ふいに彼女を思い出した。
一緒に腕輪を作ったことも。
もう、どうにもならないのだ。
そう自分に言いきかせて、無心で草を摘んだ。
――編み込んでゆく。
上手に出来た。デュリナーダの頭にそっとのせる。
『これは?』
『草冠だよ。似合うわ、デュリナーダ』
『それは光栄の至り』
だが少し大きかったようだ。
デュリナーダがくすぐったそうに耳を動かすと、それはずり下がってしまった。
顔の斜めにかかってしまい、視界を遮ってしまう。
そこで首にはめ直して上げた。
『首飾りになっちゃったね』
『美味い』
デュリナーダは飛び出している草を食んでいる。
『もう!』
もぐもぐと口を動かすデュリナーダが目を細める。
せっかくの輪っかは崩れてしまったが、思わず笑ってしまった。
「あの、エイメ様」
遠慮がちに声を掛けられて振り返った。
フィオナの声だったから安心して。
「はい?」
フィオナの横には、白いローブをまとった神官長様がいらっしゃった。
そして――その背後に黒い人影が二つ。
レオナル様とシオン様。団長と副団長の二人だ。
間違いようのない人たちの姿が、そこにあった。
「神官長様のご訪問でございます」
『神官長か。それだけならまだしも、余計な連れもいるようだな』
デュリナーダが遠慮なく言い放った。
「急に訪ねてすみませんなぁ。ご機嫌いかかでございますかな、エイメ様?」
庭に出たままの私に、神官長様はにこやかに尋ねてきた。
手を振りながら、ゆったりとした足取りで近づいてこられる。
神官長様だけだったので、安心する。
二人とも姿勢良く立ったままで動かない。
本当に影みたいだった。
「あ、すみません。こんな格好で。すぐ、戻ります」
「なぁに。そのままでいらしゃって下さい。そのまま、そのまま」
立ち上がろうとしたのも、手で制された。
神官長様はにこやかに笑み浮かべながら、私の隣に腰を下ろした。
「ふぅ。よいしょ。獣は大人しくあなた様に仕えておるようですな。いや、結構・結構」
「仕える、だなんてそんな……。」
その言い方は相応しく無い気がした。
でも面と向かって違うと言うのもためらわれて、言葉を濁すだけだった。
デュリナーダを見上げると、澄ました様子で草を食み続けている。
「獣もあなたに首ったけのようですな」
「獣、も?」
尋ね返したが、神官長様は深く笑みを刻まれただけだった。
『そのようだな』
デュリナーダが鼻を鳴らした。
「獣様は話が解るようですな」
「はい?」
確かにデュリナーダはおしゃべりが出来る。
「なあ、エイメ様。今日訪ねたのは他でもない。どうしてもお願いしたい事がございましてなあ。このじいの頼みを聞いてはもらえませんかな? 何。大した事では無いのですが、エイメ様でなければならない事なのですよ」
「なんでしょうか?」
私に出来ることなんてあるのだろうか?
何であれ、仕事をもらえるようだ。
緊張したが、嬉しさも込み上げてきた。
身を乗り出すようにして、神官長様と向き合った。
「大型犬の躾でございますよ」
にっこりと笑って、神官長様は言い切った。