大地主と大魔女の娘


大型、犬――。

 その生き物を思う時、どうしてもまず最初に沸き上がるのは「苦手」だという意識だった。

 そこで地主様の所で世話したコ達が思い浮かぶ。

 必死で尻尾を振って、親愛の情を示してくれたコたち。

 彼らは皆、幻獣までといかなくとも、充分に賢い。それに人の心に敏感だ。

 言葉は通じない。でも、一生懸命、心を伝えてくれようとする。

 あの熱心な瞳に気圧されてしまうのが常だ。

 言葉を持たない彼らの、そんな心意気は嬉しくもあり、また言いようのない苦手意識が募ったものだった。

 いくらか恐怖心は薄らいだとはいえ、二の足を踏んでしまう。


「い、犬……?」

 にこやかな神官長様に怖々、尋ねた。


「左様でございますよ」

「ほ、吠えますか?」

「おや。エイメ様は犬が苦手でございましたか」

「う……。はい」

 素直に降参する。

 神官長様は意外に思ったのだろう。驚かれた。

 眼差しはデュリナーダへと注がれた。

 言いたいことは、だいたい解る。

 獣は平気で何故、犬を恐るというのか。そんな所だろう。


『ふん。あのような犬どもと、我を一緒に括るでないわ。あ奴らよりも我の方が賢く、紳士で、乙女の側に相応しかろうよ!』

 デュリナーダが流し目をくれた先には、二つの大きな人影があった。


「これは獣様。いやはや、そんなつもりは無いのですがね。これはこのじいの例えが悪かったようだ。お許しくだされよ、エイメ様」


「あ、いえ、そんな! お気になさらないでください。その。例え、ですか?」

『まどろっこしい前置きはいいから、早く。はっきりと用件を言ってみろ。エイメが不安がっているだろう』


 デュリナーダが前足で地面を蹴り上げた。


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 皆、無言でお茶を口にするばかりだった。

 会話も何もない。かろうじて挨拶は済ませたが。


 このまま終わらせたい所だったが、そうも行かないようで、神官長様がやきもきしているのが伝わってくる。

 神官長様に新しいお茶のお代わりが注がれた。三杯目になる。

 レオナル様とシオン様に至っては、既に四杯目だ。

 私はゆっくりと味わい、まだ一杯目。しかし底が見えてきた。


 先程の提案である「大型犬の躾」とやらの内容に、ため息をお茶と共に飲み込む。


 神官長様の話しの内容はこうだった。


 何でもレオナル様もシオン様も、私が出歩かない事に責任を感じておられる、そうだ。

 何故、そのような運びになるのか。はなはだ疑問だ。

 彼らの望みにそうように、自分では振舞ったつもりだったからだ。

 私の姿が見えなけば、彼らの平穏も保たれるはずだと。

 しかし、それは逆だという。――逆?



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