大地主と大魔女の娘


私は混乱する。

 いつか地主様のお館で言われた言葉を思い出す。


「言葉通りに受け取られませぬように」

 今、この状況もどうやらそうらしい、と推測できたがそれまでだ。

 彼らは私に会いに来た。

 何か言いたいことがあるからだ。それは……それは。

 お二人のせいで私が出歩かない事に対して。


 それを詫びたいが彼らの立場上、私の方からの呼び掛けがなければ、話しかけることもままならないという。

 良いことを聞いた。だったらこのままやり過ごしてやろうか。


 だが、二人とも思いのほか気に病んでいるようで、神官長様が良いように計らってくれたらしい。

 何が「良いように」なのだろう。


 そもそも立場を理解しろと言われたが、具体的にどうしていいのか解らなかった。

 どうやら私の立場というものは危ういものらしい。

 それは巫女王に相応しいかどうか、という事だけではない。

 この立場にすえられた私を良く思わない者が、何らかの動きを見せる可能性もあるらしい。

 そこは私を脅しすぎないようにとの配慮からか濁されたが、要はそういう事だった。

 何かあったら責任を問われる者も出てくるという、オマケ付きで。


 ――それは私の身の回りを世話してくれる人たちということだ。大変だ。


 キーラやフィオナの顔が浮かんだ。それにレオナル様やシオン様も。


 皆の様子と言われた言葉を拾い集めた結果、私が下した決断が「必要の無い限り出歩かない」というものだった。

 そうすれば彼らを煩わせることもない。私の身も守られるだろう。

 これでレオナル様の仰った「我々の立場をご理解ください」というものにも報いれる、と一人納得したのに。


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 どうやら色々と避けられないのは間違いない。と、いうことは逃げ場がないという事だ。

 私は遠慮なく、ため息をついた。今まで飲み込んだ分も全部。

 くたびれたのだ。

 言いたいことをただ察してくれと、待っていられても困る。


「エイメ様は、ずいぶんとお疲れのご様子で。大丈夫ですかな?」


 神官長様が両隣に座る二人に目配せを送りつつ、私を気遣った。

 曖昧に頷いて応えながら、私も二人を見やった。

 シオン様とは目が合ったが、すぐさま逸らされる。

 レオナル様は相変わらず、びくともしない。表情を崩さず澄ました顔のままだ。

 いや、わずかばかり眉がひそめられた気がした。だが、それだけだった。

 何なのだろう。本当に何をしに、ここに来たのだろう。


 さきほど、神官長様がぼやいていたのも解る気がする。


 ――いやなに。わしでは手に負えない部分もございましてなぁ。


 そんな事は無いと思ったのだが、そういう部分がこういう部分なのかもしれない。

 そこは私の言葉で無いと聞かない、そうだ。

 にわかには信じがたいが、神官長様の指す「大型犬」なるものは「そういうもの」なのかもしれない。





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