大地主と大魔女の娘

巫女にふさわしい騎士



神官長からは、よくよく言って聞かされた。

「よいか。余計な事は言うな! よ い な ?」


 心得ている。もう、嫌というほどに。

 最初、気配を殺して臨んだ面会だった。自分はさも、神官長の護衛だという顔をした。

 心の中ではひっそりと、物陰で獲物に狙いを定める獣のようだとも思ったが、なるべく奥底に沈める。

 無心だ。

 もどかしさも、やり過ごす事の出来ない切なさも、今は全部沈める。


 数少ない少女とのやり取りの中で、無意識に「俺は名目上は彼女の後見人なのだから」という気があったのは確かだ。

 だから右も左も分からぬ彼女に意見し、それが受け入れられて当然だと思っていた。

 言葉の端々にそう言ったものが表れていたのだろう。意見は受け入れられた。

 だがそれは俺の望まぬ方向になったのは、認めるしかない。


 部屋に控えてじいさんが、少女に挨拶する様子を見守った。

 陽の光にか細い肢体が浮かび上がって見える。その肩が揺れた。

 遠目からでも戸惑う様子が伝わってくる。

 あえて前触れもない来訪だったから、なおさら驚かせただろう。

 そっとうかがうと、白い獣に目を細められた気がした。

 白い獣はさり気なくも堂々と、我らの視線と少女の間に割って入った。

 こちらを真っ直ぐに向いて、何やら草を食んで見せるたび、歯が見えた。


「獣め……。」

 忌々しそうにシオンが呟いたのには全くもって、同感だ。


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 実際、七日ぶりの少女を前にしてみたら、何の言葉も出てこなかった。

 じいさんと獣とに付き添われて、黒い瞳がより一層深みを増して映る。

 肩にかかる黒髪はゆったりとリボンで押さえられ、空気をはらんだようにふわりと少女の頬を縁どっていた。白い衣装をまとい、全面に清純さと無垢さを押し出してくる。

 それでいて、えも言われぬ微かな女らしさが漂う。ふと花が香るような。

 よほど気を付けていないと、やり過ごしてしまいそうな微かさ。

 足元を熱心に見つめながら進んできた少女が、ついと面を上げた。


 我々の姿をみとめ、不安そうに惑う瞳にすがった。


 どうかそらさないで欲しい。

 少女がぱちくりと、つぶらな瞳を瞬かせた。

 それからゆっくりと視線を外されたが、不快感は無かった。

 ゆるゆると頭を下げられ、それは礼を取るためなのだと知ったからだ。


「ようこそ、お越し下さいました。どうぞお掛けになって下さい」


「ありがとうございます」


 短く返し、すぐさま頭を下げた。


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