大地主と大魔女の娘
「まま、獣殿。落ち着かれよ。この者達は巫女の騎士ですから、乙女の御身を守ろうと働くのですよ。それに、このじいも含まれますがな。ご理解なされよ」
デュリナーダは耳を後ろに倒してぐぅと唸った。
さすがのデュリナーダも、神官長様には大きく出られないようだった。
何か逆らってはいけないと本能で勘づいているのだろう。
「なあ獣殿? 獣殿も巫女の乙女に相応しくあらねばなりませんなぁ。そうは思いませんかな?」
『……思う』
「おお、おお。やはり賢くておられる。それでは貴方も立派な騎士らしく振舞わねばなりませんよ。さすれば乙女は安心して貴方の御そばで憩う事ができましょう」
『立派な騎士。乙女に相応しい……。』
幼子に辛抱強く言含めるかのような神官長様の言葉に、デュリナーダは噛み締めるように繰り返していた。何か心に響くものがあったのだろう。どことなくしおれて見えた毛並みが持ち直したように見えた。
『デュリナーダ。貴方は本当に賢くて、いい子ね』
『デュリナーダ、賢い。乙女に、エイメに相応しい騎士!』
少し離れてはいたが声を掛けると、彼は嬉しそうに胸を張った。
次の瞬間、デュリナーダはたっと軽やかな一歩を踏み出した。こちらに向かって。
抱きとめてやろうと、椅子に座ったまま両腕を広げて待った。
「え……っ!?」
『エイメ!』
言葉を飲み込んだまま、失う。
レオナル様を押しのけるようにして飛び込んできたはずの、白い獣はどこにも見当たらなかった。
代わりに、私と同じ年頃のような少年が目の前で微笑んでいる。